2024年03月29日( 金 )

【凡学一生の優しい法律学】真の民主国家を目指して(6)

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日本学術会議の推薦無視は憲法違反の行政行為

 民主主義は人類が歴史的経験を基に構築した政治思想、システムであり、万人に伝達されるためには言語による精密化と正確化が不可欠である。それらは憲法や法律というかたちを取っているため、国民は憲法や法律を基本的に理解する教育を受けなければ自国の民主主義の現状および達成度・成熟度を理解できない。

 菅総理大臣による日本学術会議会員の選任手続における「推薦無視」の問題は、国会議員の法的思考力、理解力の稚拙さを見事に反映したものであり、無意味な見当違いの議論に終始している。心ある国民は成果の生まれない不毛の論戦に対して失望感を深めるのみである。

 本稿は論戦の不毛性、その根本にある論理的背理性、矛盾性について解説する。

10. 国会論戦の主要な争点の概要

 野党議員は菅総理大臣に「6名の被推薦人について推薦を無視して任命しなかった理由」を問いただしているが、これに対して菅総理大臣は「人事に関する内容については言及しない」という拒否の回答を延々と続けている。

11. 正確で明白な法的論点

(1)総理大臣は日本学術会議の推薦を無視できるか。その根拠は何か。

 この問題は6名の被推薦人の存在とは無関係であり、抽象性が一段と高い論点であるため「人事の秘密」の問題は発生せず、「人事の秘密」の抗弁は成立しない。

(2)総理大臣に被推薦者の任命拒否ができるか。その根拠は何か。

 この論点が(1)の論点とは本質的に異なることを理解できなければ、そもそも本件の法的、論理的解決は望めない。総理大臣に純然たる任命権があるならば、その任命権に基づく任命は総理大臣の専権となり、具体的に人を選定した理由も人事の秘密に含まれる。そのため、「公的人事においても人事の秘密は開示の必要がない」という条件を前提として、理由なき任命拒否も正当化できる。

 しかし、この場合は明らかに、日本学術会議の推薦の存在を最初から無視した、ないしは前提としない、一般的な任命行為のプロセスであるため、検討違いの議論となる。

 つまり、「人事の秘密」とは「選定の秘密・選定の理由」であるため、すでに選定され、日本学術会議の推薦を受けた6名の被推薦者についての「人事の秘密」はなく、存在するのは「任命行為の拒否理由」のみである。

 また、次のように説明することもできる。6名の被推薦人について「人事の秘密」といわれる「選定の根拠・理由」は推薦した日本学術会議が認識して実行している事項であるため、そこに「人事の秘密」がある。総理大臣が、この6名をなぜ推薦したかと日本学術会議に質問した場合にこそ、日本学術会議がその理由の開示を拒絶する際に「人事の秘密」という言葉が登場する。

 「人事の秘密」など存在しない局面において、「人事の秘密」を理由にして推薦無視に基づく「任命拒否」の理由を隠蔽している。

 (2)の議論は結局、詭弁の世界であるが、(1)の問題はより本質的な問題であり、内閣の従来の答弁が「推薦を無視できないとまではいえない」(つまり無視できる)という明白な解釈変更についての法律問題、政治問題である。

 法令の文言に真っ向から違背する解釈の変更が内閣に許されるはずもなく、この点こそが憲法違反の行政行為であることが、本事件の本質である。

(了)

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