2024年03月29日( 金 )

【ラスト50kmの攻防(18)】国費増の壁を崩さず

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

あくまで、国費増の”壁”を崩さない政府

 北陸新幹線の建設費膨張から、九州新幹線長崎ルートと北海道新幹線を含む整備3線(北海道、北陸、長崎ルート)の建設財源の調達方法が注目された。政府は、JRへの貸付料を主とし、国と地方の負担で賄う現行スキームを堅持し、2021年度当初の予算案を閣議決定した。

 建設費の増額にともなう地方負担の増加は、長崎ルートにとっても身近な話だ。コロナ禍で財政出動が常態化するなか、地方負担を増やさない手法についての政府の答えは、JRへの貸付料の操作による財源対策。政府はあくまで、国費増の”壁”を崩さなかった。

 今回の対策は、長崎ルートの新鳥栖―武雄温泉間をフル規格新幹線で整備した場合にも、大幅な法改正を行うことなしに取り得る手法に近いとされる。

 その方法はこうだ。まず、JR貨物の経営を支援する「貨物調整金」。新幹線の開業後に新幹線と並行する在来線が第三セクターの鉄道になると、JR貨物は三セク鉄道に鉄路の使用料を払う。国土交通省はその支払いが滞らないよう、JR貨物に貨物調整金を貸し付ける。

 北陸新幹線の金沢―敦賀間の増額分2,658億円を埋めるため、この貸付料から1,310億円を確保。同じ北陸新幹線の高崎―長野間の貸付料支払い契約期間を現行の30年延長から最大50年延長すると想定して、624億円捻出した。

 この操作により、増額分と貸付料財源の差額を、国が3分の2、地方が3分の1の割合で負担。地方負担(石川県と福井県)の90%は、両県が発行する償還期間の長い地方債で調達する。さらに、元利償還金の50%~70%は、国が地方交付税で補てんする。

 その結果、佐賀県より人口が少なく財政力指数は1ランク上の福井県の負担額170億円は、実質80億円まで減るという。

”抱き合わせ論議”の姿勢を崩さない政府・与党

 文字通り、「無理算段」であったが、その背景には財務省の強い抵抗がある。20年度当初予算案で整備3線の国費は初の800億円超えとなった。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(以下、PT)は、「23年春の北陸新幹線の金沢―敦賀間開業後に切れ目なく、敦賀―新大阪間の建設に移るため、21年度は1,000億円突破を」と気勢を上げた。ところが、主にトンネルと駅舎の工事費がかさんだことによる金沢―敦賀間の建設費増で、整備3線の21年度当初の国費は20年度並みの804億円となり、その勢いが止まった。

 長崎ルートの武雄温泉―長崎間は、22年秋開業の見通しが立った。しかし、新鳥栖―武雄温泉間については、佐賀県議会の20年11月定例会で山口祥義知事が「フリーゲージトレイン(FGT)も選択肢として残っている」と”逆走”して波紋を広げた。

 これに対しJR九州は「武雄温泉―長崎間が22年秋に開業する際は、新鳥栖―武雄温泉の整備方針を決めておかないと無責任。どうなるかわからずに開業すべきでない」(青柳俊彦社長)と踏み込む。

 国交省は20年11月のJR九州との初協議に続き、去る12月25日には長崎県と協議に入った。北陸の建設費増を乗り切った与党PTは同16日、「敦賀―新大阪間を23年度当初に着工するため、建設財源の確保など着工5条件の早期解決を図る」と申し合わせた。

 長崎ルートの新鳥栖―武雄温泉間と北陸新幹線の敦賀―新大阪間の財源スキームについて、政府・与党は”抱き合わせ論議”の姿勢を崩していない。

 国交省幹線鉄道課は、「いつまでも佐賀県と”幅広い協議”を続ける考えはない。武雄温泉―長崎間が開業する22年秋と言わず、もっと早い時期、可能なら新幹線の試運転が始まる前に一定の区切りをつけたい」と話した。次に開かれる与党PTでの財源論議を待ちたい。

長崎新幹線・鉄道利用促進協議会が作成した
武雄温泉-長崎間の令和4(2022)年秋開業を告知する
8枚綴りパンフレットのトップ。
武雄温泉駅での「乗り換え」を強調し
全線フル規格を訴える。

【南里 秀之】

▼関連リンク
【ラスト50kmの攻防(1)】長崎新幹線〈新鳥栖―武雄温泉〉の周辺を探る
【ラスト50kmの攻防(2)】〈長崎ルート〉は停滞、描けないまちづくり
【ラスト50kmの攻防(3)】国は「決められないなら後回し」 佐賀県と溝
【ラスト50kmの攻防(4)】「武雄温泉-長崎」開業は22年度 焦り隠せぬ検討委
【ラスト50kmの攻防(5)】六者合意の「終着」点見えず FGT導入でも溝
【ラスト50kmの攻防(6)】活発化する長崎県の動き 佐賀県知事は「不快」感あらわ
【ラスト50kmの攻防(7)】佐賀県議会・新幹線対策特別委始まる 国交省鉄道局次長などを参考人招致
【ラスト50kmの攻防(8)】「これ以上はFGT開発に予算と時間を割けない」 FGT断念、国交省ひたすら陳謝
【ラスト50kmの攻防(9)】国体は良くて、「新幹線はダメ」の根拠は? 「佐賀国体」会場に540億円
【ラスト50kmの攻防(10)】新旧知事の”判断”  山口知事は地域の〈光と影〉を懸念
【ラスト50kmの攻防(11)】〈広報〉と〈情報公開〉 突然“消えた”データ
【ラスト50kmの攻防(12)】武雄温泉―長崎が22年秋開業 整備議論に「総選挙」も影響
【ラスト50kmの攻防(13)】不十分な「採算性」論議 特急『みどり』『ハウステンボス』の行方は
【ラスト50kmの攻防(14)】フル規格開業のメリットは長崎県、費用負担は佐賀県 予算編成“終着駅”はどこに
【ラスト50kmの攻防(15)】長崎ルート全線開業の機運加速 両県関係者が意見交換会
【ラスト50kmの攻防(16)】並行在来線の協議は経営分離前提にせず JR九州
【ラスト50kmの攻防(17)】膨らむ建設費 財源をめぐる綱引き

(17)
(19)

関連記事