2024年04月20日( 土 )

国産初の手術ロボット、がん手術で実用化~世界市場独占の米国・ダヴィンチに挑む(後)

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 多くの人が一生に一度は受ける外科手術。手術ロボット市場は、これまで米国のインテュイティヴ・サージカルの「ダヴィンチ」がほぼ独占していたが、国内企業の(株)メディカロイドが参入。国産初の手術支援ロボット「hinotori(TM)サージカルロボットシステム」の実用化に成功した。手術ロボット市場は今後、拡大が見込まれている。

「hinotori」のロボット手術のイメージ
「hinotori」のロボット手術のイメージ

 がんなどの手術を行う外科医は仕事が過酷であることが多く、医療裁判などで手術結果の責任を負うリスクが高いため、外科医を目指す若年層が減少し、人手不足になりつつあるという。また、大きな手術を行って腕を上げたいと都市部の病院を望み、地方に行きたがらない若い医師が増えているため、医療格差が生まれている。メディカロイド副社長・田中博文氏は「医療現場では、医師不足を解決するため、若い医師が地方の現場で手術を行い、ベテラン医師が都会の病院からサポートする遠隔医療の需要が高まっている」という。

医師が操作台の3Dモニタの立体画像を見ながら指でハンドルを動かす
医師が操作台の3Dモニタの立体画像を見ながら
指でハンドルを動かす

 手術ロボットの「ダヴィンチ」は、米国の国防総省が戦争で負傷した兵士を医師が遠隔手術をできるように開発した技術を、民間企業が引き継いで1999年に生まれた。遠隔手術は20年以上前から研究されてきたということだ。

 ただし、内視鏡手術の動画データは重く、遠隔地では手術現場よりも画像が遅れてしまうため、実用化にはデータの高速化が欠かせない。少しでも遅れると医療事故のリスクがあるためだ。しかし、3Dの手術画像に注意点などをベテラン医師が画面上で書き込むことは今でも可能なため、田中氏は「技術の進歩により、遠隔の手術サポートは2025年ごろには実現できるのではないか」と見込む。

 また、田中氏は「ロボット遠隔手術の最終的な目標は、離島でも現地に医師が立ち会わずに都会から手術できることだ。データ通信が高速化されると技術的には可能となるが、実用化するには、安全性の面で解決しなければならない課題が多い」と語る。

手術ロボット国産化のニーズ

(株)メディカロイド副社長 田中 博文 氏
(株)メディカロイド副社長
田中 博文 氏

 田中氏は国産手術ロボットについて、こう語る。

 「医療機器は誤作動や不良品などがあるとメーカーに安全性の責任が問われるため、リスクを覚悟することでこの事業を行うことができた。日本のメーカーは、MRIなど病気を診断する機器は数多く開発している。しかし、治療では万が一、事故が起こったときのリスクが高いため、ロボット手術の開発に二の足を踏む企業も多いのではないか」。

 医療機器市場は景気に左右されにくく、拡大が見込まれる市場である一方、貿易収支では年間9,500億円の輸入超過(2018年、厚労省調べ)となってきた。「hinotori」は川崎重工の国内工場内でつくられているが、田中氏は「医療現場では、国産の手術ロボットを待ち望む声も多かった」と指摘する。安全性が求められる医療分野では、国産ロボットを使いたいというニーズはやはり強いようだ。

(了)

【石井 ゆかり】

(中)

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