伊都国の歴史に見る糸島半島の今昔(中)
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伊都国という歴史
旺盛な開発需要に支えられ、活気づく糸島半島。近年、急速に地域ブランドの構築が進んだようにも見えるが、その歴史を振り返ると、実は古来より人と文化の交流拠点であったことがわかる。
糸島半島は、玄界灘を挟んで朝鮮半島や中国大陸に近いという地理的特性から、古代から大陸との接点として重要視され、とくに紀元前後の弥生時代中~後期にかけては、倭国内の国の1つである「伊都国(いとこく)」として栄えていたとされている。中国・三国時代の魏を中心に書かれた歴史書「魏略」には、伊都国について「1万戸以上の家があり、王は皆女王に属している」との記載がある。一方、日本側の文献では、奈良時代の歴史書「日本書紀」において「伊覩縣主(いとのあがたぬし)」の表記でその存在が確認できる。
海に面した地域であることが功を奏し、早くから大陸と交流・交易をもてた優位性は高い。当時における最先端の文明や技術が大陸から伝わったことで、伊都国の生活水準の向上に大いに役立ったはずだ。
余談だが、大陸からもたらされた最先端の文明や技術が伊都国に繁栄をもたらしたという構図は、九州大学における最先端の研究成果が糸島半島にさらなる発展をもたらすという現代の構図と、似ていなくもない。その一例として、九大の基礎研究を企業らとともに実用化・事業化する研究機関群「サイエンスパーク構想」は、アフターコロナ時代の変容に対応した新しい生活様式=“ニューノーマル”の実現を期待させるものだ。
なお、伊都国の王都は、現在の糸島市三雲エリアに置かれていたと考えられており、国史跡に指定された「三雲・井原遺跡」が論拠となっている。三雲・井原遺跡は南北1.5km、東西750mに広がる遺跡で、集落域と墓域を合わせると、その面積は約60haにおよび、東京ドーム約12個分に相当する。日本を代表する弥生時代の拠点集落とされており、伊都国の中心的拠点集落=王都というのも納得できる規模だ。
三雲・井原遺跡で発見されたもの
【伊都国王の墓】
・一辺30mを越える弥生時代の大型墳墓
・2基の甕棺(かめかん)から中国製の銅鏡が57面以上、ほかにガラス璧、ヒスイ勾玉、銅剣など、豪華な副葬品が出土
【その他】
・多量の中国製の土器(楽浪系土器)と国内2例目となる石製の硯2点が出土
・弥生時代初期(今から約2,500年前)の大型支石墓を確認
・弥生時代前期(今から約2,300~2,500年前)の集落と墓域(甕棺)を確認
など遺跡の規模や数々の豪奢な出土品からも、王都とされる三雲・井原エリアの存在が際立つが、伊都国の盛況ぶりを示す遺跡として、ほかに「志登支石墓群(しとしせきぼぐん)」や「四反田(したんだ)古墳群」「釜塚(かまつか)古墳」などが挙げられる。
志登支石墓群は、弥生早期~前期(今から約2,100~2,500年前)にかけての支石墓10基、甕棺墓8基などが発見されている墓地群。副葬品として柳葉形磨製石鏃(やなぎばがたせきぞく)4点、打製石鏃6点が出土していることなどから、朝鮮半島との交流を物語る貴重な史跡として認知されている。
四反田古墳群は、6墓の円墳からなる古墳群で、銅鏡や勾玉・小玉などが出土している。古墳群のある丘陵の周辺には巨石群もあることから、まるでパワースポットのような様相を呈している。
釜塚古墳は、そのほかの古墳とは一線を画す形状をしており、人目を引き付ける。古墳時代の中期に築かれた、直径56m、高さ10mの北部九州最大級の円墳で、周囲には幅5~8mほどの周濠がめぐらされ、墳丘と外部をつなぐ土橋(渡り土堤)も認められた。また、周濠からは全長2m超の石見型(いわみがた)木製品が出土。古墳を邪霊から護るために墳丘に立てられた祭具とされており、国内の出土例としては最古のものとなっている。こうした多種多様な史跡や出土品が、弥生時代・倭国における伊都国の存在価値を高めている。
古代の糸島半島は、海に突き出した「志麻(しま)」と内陸部の「怡土(いと)」の2つの地域に大別されており、両エリア間の往来は、泊~志登(現在の波多江周辺地域)を介して行われていたものと考えられる。当時の泊~志登間は、満潮時には海に沈むものの、干潮時には陸続きとなって行き来が可能な場所だったとされている。地域住民にとっては漁業の拠点であり、渡来人にとっては伊都国・王都への海の玄関口として、重要な役割をはたしていたものと推測される。既出の「志登支石墓群」の存在からも、その可能性は高いのではないだろうか。
このように伊都国は、海路という流通チャネルを通じて、大陸との交流・交易を行うことで栄えたとされる。そして現在、チャネルは海路にとどまらない。
(つづく)
【代 源太朗】
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