2024年03月29日( 金 )

【企業研究】九州旅客鉄道(JR九州)~上場以来初の中間赤字

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 鉄道事業を中核に建設や不動産、ホテル、飲食など多角化を進め、2019年3月期に過去最高の営業収益を上げた九州旅客鉄道(株)(JR九州)だが、コロナ禍で20年3月期は減収減益となり、21年3月期の中間決算では上場以来初の赤字を計上した。

「三島会社」初の上場をはたす

 JRは東海、東日本、西日本といった、人口が多い本土エリアを走る路線をもつ3社に比べて九州や四国、北海道などは「三島会社」と称され、開業当初から厳しい経営を強いられた。

 しかし、九州旅客鉄道(株)(JR九州)はさまざまな改革や新事業の開発で事業拡大をはたしてきた。本業である鉄道では、「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と銘打った「ゆふいんの森」や「A列車で行こう」などの観光列車、2013年10月に運行を開始した高級寝台列車「ななつ星in九州」などを開発、鉄道ファンのみならず、国内外から多くの人を呼び込んだ。さらに、20年10月からは「36ぷらす3」の運行も始めた。

 鉄道事業以外でもホテルや飲食、不動産開発・販売など新たな市場開拓に挑戦した。こうした多角化経営が奏功し16年10月、東京証券取引所に経営が難しいと見られた「三島会社」では初の上場をはたした。

19年3月期は過去最高の営業収益

 同社は順調に業績を伸ばし、19年3月期決算で営業収益4,403億5,800万円の前期比6.5%増。過去最高の営業収益と9期連続の増収となった。利益面では若干の減収となったが、堅調に成長する経営を印象づけた。

 しかし、20年に入ると新型コロナウイルス感染が拡大し、同社を取り巻く環境が一変、海外からの入国も制限されインバウンド需要も途切れ、関連事業も大きな影響を受けた。駅ビルでは2月まで過去最高の収益を更新する堅調なペースで推移していたが、3月に入るとイベントの中止や営業時間短縮要請などで一気に減速する。ホテルや流通・飲食関連でも同様に売上が落ち込んだ。その結果、20年3月期は、営業収益が前期比77億円減の4,326億円、営業利益が144億円減の494億円、経常利益が159億円減の506億円、最終利益が177億円減の314億円となり、連結営業収益、営業利益、経常利益、当期利益すべて減収減益に終わった。

 セグメント別でみると、運輸サービスが1,737億円で前年比95.5%、建設が993億円の105.9%、不動産賃貸が552億円の102.5%、不動産販売は189億円の95.7%、ホテルは166億円の101.1%、流通・外食は1,046億円の100.6%となった。

第3波で先行き不透明に

 今期の状況はどうか。4月から9月までの上期の業績を見てみよう。前半は、緊急事態宣言の発出により、ゴールデンウイーク期間中に在来特急列車を運休したため、中長距離を中心に苦戦した。ホテルや飲食など関連する分野も売上を落とした。8月も第2波の影響で繁忙期の売上も厳しくなった。

 その結果、上期の営業収益は、前年同期比41.5%減の1,245億円、営業赤字205億円、経常赤字195億円、最終赤字102億円となった。中間決算で赤字になったのは上場以来初だ。セグメント別では、運輸サービスが413億円で前年比45.7%、建設が361億円の104.4%。不動産賃貸は4~7月にかけて、駅ビルテナントの入居者に賃料減額や販促費の免除などを行ったことで19億円の減収で、229億円の83.7%となった。不動産販売は19億円の29.3%、ホテルは24億円の29.5%と、建設以外は前年を大きく割り込む結果となった。

 通期では営業収益が2,917億円で前期比67.4%、利益面で営業赤字323億円、経常赤字314億円、最終赤字284億円を見込んでいる。セグメント別では、鉄道利用の落ち込みから運輸収入が697億円減少し973億円で前年比56.0%、建設が936億円の94.2%、不動産賃貸が495億円の89.6%、不動産販売は、年度末にかけて大型物件の引き渡しを計画していることから215億円で113.6%、ホテルは66億円の39.7%、流通・外食は子会社のJR九州ドラッグイレブンの株式の51%を売却し、持分法適用会社へ変更したことで、397億円の減収となり営業収益は前年比50.4%の527億円となる見込みだ。

 中間決算を発表した11月初旬は「概ね回復基調にある」と捉えていたが、新規感染者数、重症患者数ともに増加に転じ、全国知事会が11月23日付で「新型コロナ『第3波』警戒宣言!」を出す事態となった。政府も年末年始のGo Toトラベル適用を12月28日から翌1月11日まで、全国一斉に停止すると発表した。

 人の移動を支え、それに関連する事業領域で拡大を図ってきた同社にとって、これまでに経験したことのない難局であることは間違いない。今後は、需要開発による新しい領域での事業モデル構築が求められる。

JR九州 貸借対照表

JR九州 既往の業績

【宇野 秀史】


<COMPANY INFORMATION>
代 表 :青柳 俊彦
所在地 :福岡市博多区博多駅前3-25-21
設 立 :1987年4月
資本金 :約160億円
業 種 :旅客鉄道、貨物鉄道ほか
営業収益:(20/3連結)4,326億4,400万円

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