2024年04月20日( 土 )

日本のメガバンクにおけるみずほ銀行グループの「駄目さ加減」研究(中)

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国際金融ジャーナリスト 桐生 直行

 (株)みずほフィナンシャルグループがほかのメガバンクになぜ劣後し、これほど脆弱な組織になってしまったのかを見つめ、さらにグローバル金融市場での競争に直面する「メガバンク」と呼ばれる企業集団の将来について、予測したい。

 前回述べたように、日本のメガバンク間の競争では、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)が劣勢となっているが、そもそも日本のメガバンク3行が共通で抱える問題点はないのか。三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、三菱UFJ・FG)と三井住友ファイナンシャルグループ(以下、三井住友FG)の財務体質は、盤石なのだろうか。

 グローバルな視点で見てみると、日本のメガバンクの収益性が欧米の有力銀行に比べて低いのは、衆目の一致するところだ。そこには、日本の銀行というよりも日本全体が抱える問題点が浮き彫りになっている。その典型的な例として、金融制度の違いを指摘しておきたい。

 英米法には、全資産担保設定という制度がある。これは、銀行が、債務者の全資産を担保として取得したことを簡便な手続きで登記することができて、第三者対抗要件を取得できる制度で、英米法の影響を受ける国々の銀行取引では、広く普及している。日本の銀行は担保主義で企業の実態を判断する力がないという指摘も散見されるが、この点では、英米の銀行のほうがよっぽど担保主義だ。この結果、多くの中堅・中小企業では、融資における取引銀行が1行となり、銀行間の金利競争が働かない。このため、融資取引における利鞘を容易に確保することができる。

 銀行の平均利鞘率は、欧米の銀行が約2.7%であるのに対して、邦銀は0.9%にとどまる(米銀は3.5%)。この点では、日本の金融機関の収益力の低さが、利用者(とくに融資を受けている顧客)にメリットとなっている。

 メガバンクも同様に、この競争環境下で融資営業を続けている。恐らく、この制度が今後、変わることはないであろう。

 では、メガバンクの将来を占う上で、制度面を除きメガバンクに欠けるものは何であろう。2つの大きな問題点を指摘したい。

 1つは、報酬格差を前提とした専門職制度が発達していないこと。もう1つは、銀行業務のコスト削減に関して努力不足であることだ。

 金融機関は、人が財産を管理する上でAIが多くの業務を代行し、効率化していく流れであっても、専門性の高い人材育成はやはり欠かせない。加えて、専門性の高い人材を育成するためには、信賞必罰の報酬体制の再構築は避けて通れない。欧米の金融機関では、いわゆる通常の銀行業務を行う人材(総合職)と専門性の高い人材(専門職)を切り離した人事体制を採用している。

 多くの欧米の金融機関では、専門職の制度が機能している。代表的な専門職として、富裕層向けに資産運用をアドバイスする専門職、M&Aや株式、債券、ローンの引き受けといった投資銀行業務を担う専門職、資金為替といった市場業務を担当する専門職が挙げられる。欧米の金融機関では、専門職は、総合職とは別枠で採用され、基本的には部門内でも人事交流がなく、部門をまたいだ異動もない。欧米の銀行の日本支店や日本の現地法人でも同様の制度で運営されている。専門職は、実績が上がれば、報酬はプロのスポーツ選手並みに高い半面、実績が上がらなければ解雇される。

 一方、銀行経営の人材の育成を目指す総合職は、多くの人が日本の金融機関でイメージする銀行員である。転勤が多く、給与はそれなりに高い。雇用は安定している。欧米の銀行の東京支店や日本の現地法人でも過半の人々がこの形態で雇用されている。

 一般的に、欧米の金融機関は、すべての銀行員が実績主義で評価される半面、雇用が安定していないのではなく、多くの総合職の銀行員と一部の専門職の銀行員で構成されている。

 このように、日本のメガバンクに決定的に欠けているのは、専門職である。

(つづく)

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