2024年04月19日( 金 )

九州新幹線長崎ルートを長崎県の視点から考える(後)

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 九州新幹線長崎ルート(武雄温泉~長崎/以下、長崎ルート)の2022年秋暫定開業まで、残り2年を切った。トンネルや高架橋などの土木工事は完了済みで、線路や電気設備などの工事に入っている。駅舎についても、諫早駅、新大村駅に続き、20年7月に長崎駅でも建築工事が始まっており、開業がまさに目に見えるかたちで近づいている印象だ。その一方、国や長崎県、JR九州などが求める「長崎ルートのフル規格化」については、佐賀県知事の拒絶により、その行方がまったく見通せない状況のまま。長崎ルート問題をめぐっては、着々と建設が進むのをよそに、佐賀県の主張、動向にばかり注目が集まる傾向があるように思われる。そこで今回、長崎県の視点から、長崎ルートの暫定開業、フル規格をめぐる問題について、検証してみる。

「新しい提案って何だ?」

 佐賀県の主張も明確だ。長崎県と真逆の「新幹線はいらない(求めていない)」というものではあるが・・・。この主張は、国や長崎県などが求めている新鳥栖~武雄温泉間のフル規格を受け入れないというかたちで現れている。このほか、現行の対面乗り換え方式には合意したが、合意の前提となったフリーゲージトレインの導入が断念された以上、スーパー特急方式に戻るべきだとも主張している。

 佐賀県がこういう主張をする理由としては、新幹線による時短効果がないこと、660億円ともいわれる地元負担、並行在来線の廃止があると考えられている。要するに「新幹線のフル規格は、佐賀県にとって何のメリットもない。むしろデメリットだらけだ」といっているわけだ。佐賀県の言い分は、ある意味もっともだ。長崎ルートはそもそも佐賀県のために計画されたものではないからだ。

 長崎県と佐賀県の間では、フル規格をめぐって膠着状態が続いている。長崎県としては、何とか話の糸口を探ろうと、両知事によるトップ対談を佐賀県に求めてきた。だが、佐賀県は「長崎県の話はすでに聞いてきた。新たな提案がなければ、話し合う意味はない」として、トップ会談を拒み続けている。長崎県職員には「新しい提案って何だ?」という思いがある。「佐賀県にとってどういう課題があるか、知らなければ新しい提案もできない」からだ。「費用負担が問題なのか、並行在来線が問題なのか、佐賀県は何も具体的にいわないし、何も求めない。今のままで良いというスタイルに見える。これでは新しい提案のしようがない」と心情を明かす。佐賀県の一連の対応は、「フル規格に関する話し合いは一切する気がない」といっているように見える。フル規格進展の兆しが見えない以上、対面乗り換え方式が長期化、常態化する可能性もある。「佐賀県知事が変わらない限り、フル規格は無理だ」という声も少なくない。

 ただ、長崎県にはトップ交代を悠長に待っていられない事情がある。フル規格へのタイムリミットが迫っているからだ。フル規格を実現するためには、当然、整備に必要な財源を確保する必要がある。整備新幹線の計画路線のうち、未着工として残っている区間には、北陸新幹線(敦賀~新大阪)、九州新幹線(新鳥栖~武雄温泉)がある。敦賀~新大阪区間では、23年度の工事着工に向け、すでに環境アセス調査が始まっているが、新鳥栖~武雄温泉区間では、環境アセス調査にすら入れていない。現状のまま推移すれば、23年度着工に向けた財源議論から、新鳥栖~武雄温泉区間が外される可能性がある。最悪の場合、新鳥栖~武雄温泉区間の財源議論は、新大阪~敦賀区間の工事が完了した後までズレ込む可能性もある。長崎県には「今はとにかく財源議論に入りたい」という思いがあるわけだ。

 国土交通省にも同じ思いがあるようで、20年6月、佐賀県に対し、フル規格だけでなく、対面乗り換え(アセス不要)、スーパー特急、フリーゲージトレイン(FGT)、ミニ新幹線の5つの整備方式に対応できる環境アセスの実施を提案した。異例の提案だったが、佐賀県知事はこの提案を「フル規格を前提としたものだ」と一蹴。その後も進展がない状況が続いている。「国交省からは、『20年冬に環境アセスに入れば、何とか23年度着工には間に合う』と聞いている。非常に厳しい状況にある」(同)という。だが、「国交省から『もう無理』といわれたとしても、財源議論は北陸新幹線と一緒にできるようお願いは続けていく」(同)と話している。

負担ゼロでも「いらない」といえるか

 フル規格をめぐる佐賀県との関係でいえば、長崎県の“片思い”はまだまだ続きそうだ。ただ、佐賀県議会与党の自民党県議団が「フル規格を想定した議論」を求めるなど、佐賀県内が「フル規格、断固拒否」で一枚岩というわけでもない。両県の議会が連携し、疎通の道を開くという方法もあるのではないだろうか。

 佐賀県の民意も気になるところだ。佐賀県知事の主張が県民の民意をどれだけ反映しているものなのか、疑問が残る。この点、「知事個人のエゴじゃないのか」と指摘する声もある。佐賀県知事に質問する機会があれば、こう問いたいところだ。「仮に佐賀県の費用負担がゼロになった場合、それでも新幹線はいらないといえるのか。県民はどう思うか」――と。

(了)

【大石 恭正】

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