2024年04月26日( 金 )

コロナ&放射能禍五輪に賛同なし

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「コロナ緊急事態、原子力緊急事態を踏まえれば、五輪中止以外に判断の余地は存在しない」と訴えた2月4日付の記事を紹介する。

東京五輪組織委員会会長を務める森喜朗氏による新たな発言に対する批判が噴出している。

森喜朗会長は2月3日、日本オリンピック委員会(JOC)が女性理事を増やす方針を示したことについて、
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
「女性を増やす場合は発言の時間もある程度は規制しておかないと、なかなか終わらないので困る」
と発言した。

森氏の発言を海外メディアも批判的に取り上げている。

米紙ニューヨーク・ポストは、森氏の発言がJOCの会合で笑いを誘ったと伝えた。
米紙ニューヨーク・タイムズは森氏の女性を侮辱する発言が報道された後にSNSでの反発を呼んだことを伝えた。
ツイッターは森氏の辞任を求め始め、森氏の年齢、時代遅れの態度が本当の問題だと指摘したと伝えた。
また、SNSは、この会議の場で森氏のコメントにだれも反対しなかったことに落胆したことも表明したと伝えている。

東京五輪については日本の主権者の8割以上が中止または延期すべきだと判断していると世論調査が公表している。

五輪には日本国民の血税が注がれている。
五輪は開催者のものではなく、国民のものである。
最終的な決定権は主権者である国民にある。

森氏は自分の発言が批判を招いたことについて、辞任もあり得るとのコメントを発出しているが、速やかに辞任すべきだ。

「老害」という言葉について、年齢を根拠に批判することは適正でないとの意見がある。
年齢が高くても高い見識、冷静な判断力を有する人は存在する。
逆に年齢が低くても時代遅れの適切でない判断を示す者もいる。
従って、批判されるべきが年齢でないことは明確だが、高齢で時代遅れの不適正な言動を示す人が「老害」と批判されることは避けがたい。

森氏はコロナのパンデミックが広がっていようが、何としても五輪を開催するとの主張を提示しているが、この姿勢が不適正だ。

日本はいま緊急事態宣言の下に置かれている。
国民の命と暮らしが危機に瀕している。
政府がはたすべき最優先の責務は国民の命と暮らしを守ること。

五輪の優先順位は明らかに劣後する。
森氏の姿勢はコロナ問題を脇に置いても五輪開催を優先するというもので本末転倒そのもの。

そもそも森氏が五輪に執着してきた理由に対する疑念が払拭されていない。
五輪にともなう巨大利権が森氏の最大関心事であり続けたとの見方が有力だ。
五輪は利権を獲得するための隠れ蓑に過ぎないと見られている。

「復興五輪」の名称が用いられたが、2011年の大震災、原発事故の被災者は五輪の陰で切り棄てられている。

日本ではいまなお、「原子力緊急事態宣言」が発出されたままだ。
原子炉など規制法および放射線障害防止法によって一般公衆の被曝上限は年間線量で1ミリシーベルトと定められている。

ICRP(国際放射線防護委員会)勧告に基づく法定値だ。
ところが、この法定値が「原子力緊急事態宣言」を楯に改変されている。

原発被災者は年間線量20ミリシーベルトの放射能汚染地域への居住を強制されている。
年間線量1ミリシーベルト以下の地域に避難しても、政府は避難費用を1円も補償しない。
高線量放射線汚染地域への居住が強制されている。

この状況で「復興五輪」と表現するところに五輪推進者の欺瞞と悪魔性が鮮明に表れている。
五輪は「平和の祭典」でなく「利権の祭典」に変質している。
この機会に五輪の在り方を根本から議論し直すべきだ。

スポーツは「産業」と化している。
「産業」と化したスポーツに国民の税金を投入する必要性は存在しない。
民間の産業としてスポーツ興行を展開すればよいだけのこと。
コロナの現況、放射能汚染の現況に鑑みて速やかに東京五輪の中止を決定するべきだ。

五輪招致をめぐる不正問題についても決着がついていない。
フランス捜査当局は東京五輪の招致活動にかかわる贈賄事件捜査を進めている。
JOC元理事長・竹田恒和氏の容疑は晴れていない。

アスリートの努力は貴重なものだが、スポーツがもはや1つの産業と化してしまっている以上、アスリートも労働者、事業家と化している。
それぞれの個人が利潤動機で各活動にいそしんでいるに過ぎない。
産業である以上、公金を注ぐべき対象ではなく、競争原理によってそれぞれの営みが行われるべきだ。

日本は1990年を境に転落の一途をたどってきている。
経済成長は停止し、労働者の所得は減少し続けてきた。
アベノミクスが始まった2013年から20年の7年間に労働者1人当たりの実質賃金は8%も減少した。
世界最悪の賃金減少国になっている。

年収が200万円に届かない労働者が2割を超える。
労働者の55%が年収400万円以下の下流に押し流された。

その一方で税制改悪が強行された。
1989年度から2019年度までの31年間に消費税で400兆円が吸い上げられた。
同じ期間に法人税は300兆円、所得税は275兆円も税負担が軽減された。

消費税で巻き上げたお金が大企業と富裕層にばらまかれた。
さらに追加的に175兆円が大企業と富裕層にばらまかれた。
財政再建のための消費税増税、社会保障制度拡充のための消費税増税は真っ赤なウソだった。

消費税増税で苦境に追い込まれるのが所得の少ない階層。
夫婦子2人片働き世帯の世帯主では子の年齢などにもよるが年収350万円までは所得税が無税。
ところが、年収の350万円を消費に充てれば35万円が消費税で巻き上げられる。
格差拡大、所得の少ない人の生活苦は極めて深刻になっている。

菅首相は「最終的には生活保護がある」というが、「生活保護」制度が形骸化している。
生活保護を利用する要件を満たしている人のなかで、実際に生活保護を利用している人が2割に満たない。

利用したくなくて利用しないのではない。
利用を妨げる有形無形の妨害措置が講じられている。

「生活保護は恥である」という空気が醸成されている。
これは完全な間違い。
「生活保護利用は正当な権利の行使」が正しい。

生活保護利用を申請すると「扶養照会」が行われる。
そんなことをされるくらいなら申請しないと考える人が多い。
「扶養照会」は義務でないと田村憲久厚労相が明言した。
義務でないなら廃止すべきだ。

「生活保護」を「生活保障」と呼び換えるべきだ。
五輪をやる前に、憲法が定める「生存権」を確実に保障すべきだ。
年間線量1ミリシーベルト以下の地域での居住を保障すべきだ。
原発事故被災者の高線量放射線汚染地帯への居住強制を即刻やめるべきだ。

原子力緊急事態宣言を解除せずに「復興五輪」と銘打つ五輪を開催しようとするべきでない。
「人類がコロナに打ち勝った証としての五輪開催」は不可能になった。
この事実を認めて、東京五輪の中止を即刻決断すべきだ。

ひたすら自分のために五輪開催強行を叫び続けてきた森喜朗氏は組織委員会会長を自分の判断で退くべきである。
利権まみれの五輪の開催を強行しようとする姿勢は醜悪なばかりで誰の共感も賛同も得られない。

判断が遅れれば遅れるほど、国民負担は増大する。
コロナ緊急事態、原子力緊急事態を踏まえれば、五輪中止以外に判断の余地は存在しない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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