2024年03月29日( 金 )

東京オリンピックは健全な世界を取り戻すチャンスに衣替えを!(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

日本もワクチンの早期開発を

 では、肝心の日本の状況はどうだろうか。菅総理は「コロナ対策を最優先課題とする」というものの、治療や予防に関しては外国任せといった感がぬぐえない。たとえば厚労省では、英国のアストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発するワクチンを1.2億回分、アメリカのファイザー社のワクチンも1.2億回分、完成した暁には輸入する契約を結んでいると説明。2月末あたりから、医療や介護従事者、そして高齢者を中心に接種を始めるという。その体制づくりの責任者には河野大臣が任命された。しかし、その先行きは厳しい。

 思い起こせば、日本はかつてインフルエンザ治療薬としてアメリカのギリアド社が開発した「タミフル」を大量に購入したが、緊急事態ということで国内での安全性に関する試験を免除した。当時の小泉首相は「1,000万人分を備蓄せよ」と号令をかけた。その結果、服用した日本の若者が相次いで死亡するという重大事件が発生。2005年の時点で、日本は生産されたタミフルの75%を輸入し、備蓄していたのであるが、この死亡事故を受け、残りのタミフルはお蔵入りとなってしまった。

 今回、日本が最初に輸入を決めたコロナ・ワクチンの「レムデシビル」は、このギリアド社が開発したものである。本来は、エボラ出血熱の治療薬として開発されたもので、アメリカでもコロナ用としてはほとんど使われていない。アメリカからの押し売りに「ノー」といえない日本を象徴しているのではないだろうか。

 厚労省から900億円の助成を受けている日本の製薬メーカーでは、アンジェスが臨床実験で他社よりも先行している。特定の製薬メーカーの利権にこだわることなく、一刻も早い治療薬とワクチンの開発・製造という共通の目標に向けて、内外の研究者と医療機関、製薬会社が共同作業のビジョンを打ち出すべきではないだろうか。さもなければ、人類共倒れという最悪の事態に陥ることになりかねない。今この瞬間も新型コロナウイルスは変異を遂げつつあり、我々に対する“見えない牙”を向けているからだ。幸いWHOでは「COVAX」と銘打ち、新型コロナウイルスとの戦いに勝つため、国際的なワクチン開発の仕掛けを創設する動きを加速させている。日本もドイツ、ノルウェーなど78カ国とともに参加を表明し、20億ドルの基金の創設を計画している。

 菅総理にはアメリカ最優先ではなく、世界各国との共同戦線でコロナ禍に打ち勝つ道筋を追求してほしいものだ。そのためにも、「コロナ対策に万全を期す」と念仏を唱えるのではなく、日常的な健康管理の在り方を提唱しつつ、具体的なワクチンの早期開発へ向けて、国際社会と協力し、資金と人材を投入すべきであると思われる。

 オリンピックとは、創始者のクーベルタン男爵によれば、「世界の人々が文化やスポーツを通じて相互理解を深め、平和を築く礎をつくり出す場」であるはずだ。アスリートに限らず、多くの国民がスポーツを楽しみ、より健康で安全な社会を目指すきっかけとすべきである。「メダルありき」ではなく、「思いやりありき」であってほしい。その意味で、21年の東京大会は従来の仕掛けにとらわれず、健全な世界を再構築するスタートラインとなるような場としなければならない。コロナ禍は発想の転換を試みるチャンスになるだろう。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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