西鉄「パークサンリヤン大橋」耐震問題訴訟~技術意見書作成者の1人 仲盛昭二氏に聞く(3)
西鉄の分譲マンション「パークサンリヤン大橋」の耐震問題をめぐる訴訟が2月4日、福岡地裁で第1回弁論が行われた。
Net IB Newsでは、被告から依頼を受けた弁護士の切望を受け被告側の反証を掲載している。原告である区分所有者と代理人弁護士の了解を得て、裁判のポイントおよび反証について構造設計一級建築士・仲盛昭二氏にインタビューを行った。
(聞き手・文:桑野 健介)
――原告が証拠として示した文献(建築構造問題快答集)の発行会社について、被告設計事務所らは「(株)建築技術は日本建築学会でもないし、訴外大橋完も訴外作田久尚も清水建設に帰属、教授でもない」と述べているようです。(株)建築技術と建築構造問題快答集について教えてください。
仲盛昭二氏(以下、仲盛) 「建築構造問題快答集」は構造設計者にとってバイブル的な存在であり、同書を発行している(株)建築技術のホームページによれば、同社は以下のような経緯で設立されています。
((株)建築技術のホームページより)
「月刊建築技術」は,旧建設省(現国土交通省)建築研究所内(現独立行政法人建築研究所)(当時東京都新宿区百人町)において,建築研究所内建築技術研究会編集のもとに戦後,わが国の建築技術に関する最初の専門誌として第1号が1950(昭和25)年に創刊されました。
1960(昭和35)年に有限会社建築技術を設立し,「月刊建築技術」第111号(1960(昭和35)年10月号)から建設省建築研究所編集から建設省建築研究所監修となりました。1980(昭和55)年に株式会社建築技術に改組し,今日に至っております。
「月刊建築技術」は創刊の辞で『技術者が育て 技術者を養う 建築技術』を標榜し,実践的科学技術の紹介こそ「月刊建築技術」の使命として,爾来,現業技術者ならびに研究者が常に自分の知識や技術的体験を練磨し向上してゆく情報を提供し続けております。
また,「月刊建築技術」の他に,多数の現業技術者ならびに研究者がより実践的科学技術のご理解を深めていただくために,建築構造問題快答集(全15巻),建築構造計算資料集(全8巻)などの書籍を刊行し,国内外の斯界の建築技術の進歩発展に大きく貢献してまいりました。
現在も出版活動を通して,明日の建築技術の創造を担う現業技術者ならびに研究者からわが国における“建築技術”の専門出版社として,絶大な信頼と期待を寄せられております。
建設省建築研究所の編集による書籍「建築技術」を発行している会社が建設省(国交省)の見解と異なる内容の書籍を発行することはあり得ません。被告設計事務所らの主張は(株)建築技術の成り立ちを隠し、あたかも一般的な企業が私的な書籍を発行しているかのような先入観を裁判官に与えることを目的とした悪質な行為だといえます。
被告設計事務所らは大学教授の意見を拠り所として主張し、建築技術社の刊行物を否定していますが、建設省(国交省)の書籍発行部門ともいえる位置づけをもっている建築技術社の刊行物の内容が国交省の見解と基本的に一致していることは当然です。
また、本件で原告が証拠として提出した文献の回答者(執筆者)大橋完氏と作田久尚氏は、清水建設で構造設計の実務を担当してきた技術者の方です。学者よりも実務に精通しており、建築技術社の書籍の回答者に選任された理由は構造設計実務に精通していることと、工学的知見を有していたからと考えるのが合理的です。
被告設計事務所らは、建築構造技術者が執筆した文献である構造問題快答集の回答者である大橋完氏と作田久尚氏を単なるゼネコンの社員と印象づけていますが、上記のように、大橋完氏はスーパーゼネコンと呼ばれる清水建設に主に構造を担当する一級建築士として38年間勤務し、その後建築技術者協会の監事(当時)も務め、構造技術者向けの文献も執筆しています。また、作田久尚氏は、清水建設のほかの技術者と共同で日本建築学会の機関誌に論文を発表していることから、建築構造研究の第一人者であることがわかります。
被告設計事務所らは、建築構造問題快答集という文献の回答者を「教授でもないのに」と批判していますが、回答者は清水建設で設計の実務に携わっている建築士であり、建築関係団体の役員を務めたり、日本建築学会の機関誌に論文を発表したりする技術者です。
構造技術者向けの文献を執筆し団体の役員も務めた技術者や、日本建築学会の機関誌に論文を発表するなど構造設計技術者として高い見識を持つ建築士と、設計の実務に携わる機会が少ない大学教授のどちらが設計の実務に精通しているかを考えれば、前者の建築士の方が実務に精通していることは当然です。被告の「教授でもないのに」という暴言は文献の執筆者に対して甚だ失礼な言葉であると思います。
また、被告設計事務所らは、原告の主張を「技術意見書を作成した仲盛の個人的見解」と主張していますが、上記のように原告が引用した文献は国交省が関係した文献であり、執筆者は日本建築学会の機関誌に論文を発表するなど構造設計技術者として高い見識を持つ建築士です。この国交省が関係している文献の内容に沿った主張は仲盛個人の見解ではないし、仲盛以外に3名の一級建築士が共同で技術意見書を作成しているので、4名の技術者の一致した見解に基づく技術意見書なのです。
(つづく)
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