西鉄「パークサンリヤン大橋」耐震問題訴訟~技術意見書作成者の1人 仲盛昭二氏に聞く(5)
西鉄の分譲マンション「パークサンリヤン大橋」の耐震問題をめぐる訴訟が2月4日、福岡地裁で第1回弁論が行われた。
Net IB Newsでは、被告から依頼を受けた弁護士の切望を受け被告側の反証を掲載している。原告である区分所有者と代理人弁護士の了解を得て、裁判のポイントおよび反証について構造設計一級建築士・仲盛昭二氏にインタビューを行った。
(聞き手・文:桑野 健介)
――この訴訟の対象となっているパークサンリヤン大橋の柱の主筋(鉄筋)が、マンション全体で7,000本も不足しているということですが、これは規準に対して7,000本も主筋(鉄筋)が不足しているということでしょうか?
仲盛昭二氏(以下、仲盛) 「主筋」とは、地震荷重などを負担する構造上の主な鉄筋のことです。このマンションの柱内部の弱軸方向の鉄骨は単なる補助材に過ぎず、その鉄骨の断面積を加えることにより柱断面の0.8%以上と被告らが述べていることは、鉄筋(主筋)の断面積が柱の断面積の0.8%を満たしていないことを自ら認めていることになります。
本件マンションの柱の場合、62%も鉄筋量が不足しており、マンション全体では7,000本も鉄筋が不足していることになるのです。
柱主筋の役割を理解している技術者であれば、被告のように「弱軸方向に鉄骨がない場合でも鉄骨を主筋に算入できる」という主張はできないはずです。弱軸方向に有効な鉄骨がなく「耐力がゼロ」なので、主筋に算入することは工学的に不適切なのです。
「主筋」の意味
「主筋(しゅきん)とは、鉄筋コンクリート造の建築物において、主に曲げ応力に抗する鉄筋である。」(出典:Wikipedia)
「鉄筋コンクリート造りの柱や梁(はり)に入れて、その建物の荷重を負担する鉄筋。主鉄筋。」(出典:小学館デジタル大辞泉)
「鉄筋コンクリート造の柱や梁に入れて、主に応力を負担する鉄筋。」
(出典:精選版 日本国語大辞典)
被告設計事務所らは、「耐震壁方向にウエブ材がない鉄骨を主筋に含む」と主張していますが、柱の断面算定において主筋の断面積はどう扱われているのか、構造計算書のうち柱の断面査定の部分を示して説明をすべきです。
――先ほど少し話が出ていた被告らの「教授でもないのに」という記述は、被告が福岡大学の教授の意見書を提出したことと関係があると思われますが、意見書を書いた教授は建築設計の実務について深い見識をもっているのでしょうか?
仲盛 被告は福岡大学の堺教授や高山教授の見解を提出していますが、被告の福永博氏らは福岡大学卒業生であり、両教授と交流がある仲間として関係の深さがうかがわれます。
また、両教授の見解は被告寄りの個人的な見解となっています。学者の見解を得るのであれば、原告・被告と関係のない、たとえば東京の学者や建築専門委員などから中立的な見解を得ることが適切であると思います。
なお、福岡大学の高山教授は「免震構造」に特化した学者です。パークサンリヤン大橋は「耐震構造」であり、免震構造と次元の異なる構造方法なので、適切な人選と思えません。
――被告設計事務所らは「原告は本件訴訟を提起する目的で本件建物を購入した」と主張しているそうですが、わざわざそんなことをするものでしょうか?
仲盛 被告設計事務所の主張は突飛であり、驚いています。原告は、重要事項説明書に記載された「構造計算に問題はない」との西鉄の報告を信じて、本件マンションを購入したそうです。購入後に、構造計算が法令規準に違反していることを知ったので、被告の主張は的外れです。
原告の方は、引っ越しをする前に構造計算が法令規準に違反している事実を知ったので、このマンションに住むことに不安を覚え、引っ越しを見合わせていると聞いています。この裁判によりマンションの安全が確保される状態に是正された後に、引っ越しをされるつもりではないでしょうか。
――被告設計事務所らは、「原告の技術意見書は仲盛氏の個人的な見解」と主張しているようですが?
仲盛 この裁判に関する原告側の技術意見書の作成は、私(仲盛)を含む4名の技術者の連名により作成しているので、技術意見書の内容は4名の合意に基づくものです。被告の設計事務所が何を根拠に「仲盛の個人的見解」と主張しているのか理解に苦しみます。
たとえば、被告設計事務所側の弁護士が提出している準備書面には3名の弁護士の名前が連名で記載されています。被告の理屈でいえば、この被告側の準備書面は3名の弁護士のうちの1人だけの個人的見解で作成しており、ほかの2名の弁護士は同意していないということになります。そんなことはないと思いますので、被告側の主張は突飛で不適切な主張だといえます。
(つづく)
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