2024年04月25日( 木 )

ワクチン接種開始とその後の展開(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、待望のワクチンがいよいよ生産され、アメリカやイギリスなどの世界各国で接種が始まった。すでに国民の半分近くが接種を受けているイスラエル当局の報告によると、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した「mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)」は、臨床試験と同程度の効果を表しているようだ。

mRNAワクチンの今までの課題

 mRNAワクチンは、3つの課題を解決して実用化されている。1つ目は、mRNAが細胞に入って初めてタンパク質をつくることができる点だ。RNAは分子量が大きくて、そのままの状態では細胞膜を通って細胞内に入ることが難しい上に、細胞に入ると細胞内のRNA分解酵素に分解されてしまうので、すぐ分解されないように保護する必要があった。mRNAワクチンの開発では、この課題を解決するために長い時間がかかったが、脂質ナノ粒子で包む技術を開発して課題をクリアできた。

 2つ目の課題として、ウイルスが騙されるほどのタンパク質の類似性が要求された。しかし、これも研究を重ねた結果、クリアできた。3つ目は、mRNAが体内で敵と認識されて免疫細胞から攻撃を受けるようになると、抗原となるタンパク質の産生に支障をきたし、ワクチンの本来の機能である免疫機能をはたすことができなくなることだ。そのため、自然免疫反応が過剰に起こらないようにする必要があった。

 一方、mRNAワクチンの弱みは低温での保管が必要なことである。一般的なワクチンは4℃で保管できるが、モデルナのワクチンは冷凍庫での保管、ファイザーのワクチンは超低温(マイナス70度)で保管しないといけない。mRNA自体は安定しているが、脂質ナノ粒子が不安定であるため、低温保管が必須であるようだ。今後は、流通させやすい技術の開発が必要だ。また、今までのワクチン接種における副反応は、注射部位の腫れや痛み、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、脱力感、筋肉痛、関節痛、吐き気、リンパ節腫脹といった症状が報告されている。

今後の期待

 mRNAワクチンの設計においては、まだ改善の余地が大きい。mRNAがさらに長く体内に存在できて、さらに多くのタンパク質を産生できる方法を見つける必要がある。過剰な免疫反応を避けながら、免疫反応を適切に誘導できることも必要だ。

 mRNAワクチンは、新型コロナウイルス対策として始めて適用されるようになったが、今後の活用範囲の拡大、応用に大きな期待が寄せられている。なかでも、世界的な製薬会社はガンワクチンとしての活用に注目をしており、すでに数社が、がんワクチンの開発に取り組んでいる。ガン細胞は正常な細胞とは異なる細胞をつくるので、ガンワクチンの投与によりガンに特異的なタンパク質を体内で生成することができれば、免疫の働きでガン細胞のみを特定して殺すことができるようになるからだ。

 新型コロナウイルスに対抗すべく、世界の知恵を集結したmRNAワクチン開発の成功は、医薬品の歴史に新しいページを開くことになったといってもよい。新型コロナウイルスがワクチンの活用で早期に終息する日を心待ちにしている。

(了)

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