2024年04月20日( 土 )

【北九州】小倉今昔物語 800枚の写真で振り返る昭和の風景

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高度成長期と鉄冷え~語り継ぐ小倉の歴史

店先に立つ●さん
店先に立つ辻さん

 昭和期の小倉の街並みを約800枚の写真で振り返る「小倉今昔写真展」が、北九州市小倉北区の商店街やデパート、モノレール駅など計10カ所で開かれている。小倉の歴史を次代に語り継ごうと、まちづくり団体「WeLove小倉実行員会」が企画した。今月28日まで展示する。実行委会長で、小倉を代表する老舗「辻利茶舗」会長の辻利之さん(67)は、「中高年の方々は昔を思い出して懐かしみ、若いころのように元気になっていただきたい。若い人には当時の情熱あふれる人々の思いを感じ取って、将来のまちづくりに生かしてほしい。自分たちの街は自分たちでつくるんだということを感じてもらいたい」と話す。

懐かしい写真が並ぶモノレール旦過駅の展示場
懐かしい写真が並ぶモノレール旦過駅の展示場

 写真は、市内在住のアマチュア写真家や市民グループ、毎日新聞西部本社などが提供。魚町・京町銀天街、小倉井筒屋市民ギャラリー、JR小倉駅JAM広場、モノレール平和通り・旦過駅などで展示している。全国初のアーケード商店街だった魚町銀天街のにぎわい、市民の憩いの場の勝山公園にかつてあったジェットコースター、到津遊園(現・到津の森公園)で遊ぶ家族連れ、市内を走る満員の路面電車、「ヤッサヤレヤレ」の掛け声が熱を帯びる夏まつりの小倉祇園太鼓……。どれも人々の思い出が詰まった1枚だ。

 このなかに、市中心部を流れる紫川の東西を結ぶ「常盤橋」界隈の写真がある。江戸時代に架橋され、長崎街道や中津街道など「小倉五街道」すべての起点であり終点でもあった。参勤交代の諸大名やオランダ商館の行列が往来し、商人や旅人が行き交うにぎわいは時代を経ても変わらなかった。

 京都発祥の「辻利茶舗」がこの橋のたもとに店を構えたのは1923(大正12)年のこと。1901年に官営八幡製鐵所に火が入り、国内外の船が日夜航行する関門海峡を擁する小倉は九州を代表する都市だった。63年には小倉市のほか門司市、若松市、八幡市、戸畑市の5市が合併して北九州市が誕生。時は高度成長期で、人々の所得は右肩上がり。街は活気に満ち、市民の笑顔があふれた。しかし、やがて訪れた「鉄冷え」。オイルショックや円高不況と相まって日本は低迷期に陥り、小倉も往年の活気を失っていった。

再建された現在の常盤橋
再建された現在の常盤橋

店づくりはまちづくり~キタキュー発日本茶カフェのライバルは「スタバ」

昔の写真を見る子供たち
昔の写真を見る子供たち

 景気の浮き沈みにかかわらず辻さんが考えてきたのは「工業都市に、お茶文化をどう根付かせるか」だった。そもそも北九州は茶の産地ではない。しかし、だからこそ全国の産地に目を配り品質のいい茶を集めることができるではないか。辻さんはプラス思考の持ち主だ。しかも研究熱心。米シアトル発のスターバックスが東京・銀座に日本第1号店を出店したときはオープン初日に駆け付けたという。その前向きな姿勢が茶舗へのカフェ併設という業界初の挑戦に表れている。93年に魚町店に、94年には京町本店に、抹茶ソフトなどのスイーツを含め日本茶に特化したカフェを設置し、人気を呼んだ。現在はこの2店舗に小倉城店、井筒屋店を加えた4店舗で多彩なメニューを提供している。

 「スタバには感銘を受けました。店内のあの空気感……あのように若者の気持ちをとらえたい、コーヒーを日本茶に置き換えたらと、いつも考えていました。スタバが世界中に店を出してシアトルの名を高めたように、小倉からも世界に発信できたらと思いました」

 その願い通り、辻利茶舗は2010年の台湾・台北への出店を皮切りに海外へ展開。これまでイギリス、カナダ、オーストラリア、シンガポール、中国などに計40店舗を出店している。常盤橋のたもとから始まった小倉の茶文化は今や世界中に知られるようになった。

 「店づくりはまちづくり、そして、まちづくりによって店もさらに発展できる」と辻さん。小倉の豊かな歴史、都市と自然の融合、元気な商店街などその魅力をもっと広めたいと考えている。そのために異業種の人々で情報を共有できる仕組みをつくろうと、10年に「WeLove小倉協議会」を発足。大学教員や自治会長、企業や行政関係者、商店主らが話し合い、さまざまなイベントを手がけている。開催中の「小倉今昔写真展」もその1つ。辻利茶舗にもほど近い場所にあり多くの観光客も訪れる旦過市場が再開発事業で姿を変えるのを前にその歴史を振り返ろうと、協議会が母体となって実行委を立ち上げた。

 「以前は隣の商店街が何をやっているか、互いに知らなかったんです。それではいけない。まちづくりはみんなのものですから」と辻さんは語る。「小倉の良さ、誇るべき点をみんなが認識することが大事だと思う。埋もれている素晴らしさを発掘し、保ち、創造する。そういうまちづくりを続けたいと思っています」。

【山下 誠吾】

註:記事中の漢字「辻」(つじ)は「十」に点が1つのしんにょう

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