2024年03月29日( 金 )

感染再爆発なら菅首相は引責辞任

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「感染爆発が生じれば五輪は中止となり、菅首相は辞任に追い込まれる」と訴えた3月18日付の記事を紹介する。

菅首相が緊急事態宣言解除を決めた。

全国の新規陽性者数は再拡大に転じている。
東京都の新規陽性者数は3月17日に400人を超えた。
9日連続で前週値を超えている。

菅首相は
1.新規感染者数が8割も減った
2.医療のひっ迫度が低下した
を緊急事態宣言解除の理由に挙げた。

しかし、足下で新規陽性者数が増加し、変異株も確認されている。

記者から、再拡大の懸念はないか問われると、
「緊急事態宣言で新規陽性者数が8割も減っているわけですから」
「医療のひっ迫度もはっきりと低下しているわけですから」
と答えたが、質問に対する答えになっていない。

新規陽性者数が減少したのは、
1.世界的な感染波動が感染縮小に転じていること
2.緊急事態宣言などによって人々が行動抑制したこと
が理由である。

医療のひっ迫度合いが低下したのは
1.新規陽性者数が減少したから
だ。

緊急事態宣言を解除すれば、人々の行動抑制が著しく緩和される。
これに連動して新規陽性者数が再拡大する。
新規陽性者数が再拡大すれば医療が再びひっ迫する。
これが論理的な推論だ。

新規陽性者数が明確に増加し始めているのに、人々の行動を抑制するのでなく、人々の行動拡大を推進するメッセージを発することは明らかに不適切。

「緊急事態宣言を発出したのに感染が拡大し始めたから、緊急事態宣言はやっても無意味。
「だから、緊急事態宣言を解除する」
このような意見が聞かれる。

この意味で緊急事態宣言を解除するなら、その意味は
「コロナ敗北宣言発出」
ということになる。
「あとは野となれ山となれ」
のスタンスだ。

4、5月に感染爆発が生じた場合、菅首相は辞任に追い込まれることになる。
小池都知事はその可能性を念頭に静観の構えを示していると見える。

感染の波は
1.世界的な感染の波
2.人々の行動変動
によって規定される。

世界的に感染第4波が生じない場合、日本においても感染の急拡大が生じない可能性はあり得る。
この点は未知だ。
世界の新規感染者数が下げ止まったと伝えられているが、まだ、感染再拡大は明確になっていない。
4月、5月にかけて世界で感染第4波が生じるのかどうかが第1のポイントになる。

2つ目のファクターも重要だ。
日本における人の移動は年末にかけて急減した。
「緊急事態宣言」そのものよりも、コロナに対する人々の警戒姿勢が強く影響している。

人流低下は昨年末から本年1月末まで持続した。
しかし、2月入り後に増加に転じた。
「緊急事態宣言」は延長されたが、その解除観測が広がるに連れて、人流は確実に拡大しつつある。

2月20日以降の人流拡大が3週間遅れて3月中旬から顕在化し、新規陽性者数増加に反映されている。
緊急事態宣言が解除されれば、人流は爆発的に拡大することになるだろう。
世界的に感染第4波が生じる場合、4月から5月にかけて日本で感染爆発が生じる可能性は高いと思われる。

菅首相は五輪強行、総選挙突破のシナリオを描いている。
3月25日から聖火リレーがスタートする。
これに合わせて緊急事態宣言を解除したまでのこと。

新規陽性者数が明確に増加に転じるなかでの緊急事態宣言解除は緊急事態宣言そのものに対する不信感を生む理由になる。
そんないい加減なものであるなら、今後、「緊急事態宣言」は意味をもたなくなる。

「店じまいセール」の看板が掲げられて、慌ててセールで買い物したが、いつまでたっても店じまいしない。
ついに、「店じまいセール」の看板がはずされてしまった。
少し時がたつと、また「店じまいセール」の看板が掲げられる。

こんなことが繰り返されると、「店じまいセール」の看板が掲げられても人々は無反応になる。
菅内閣の「緊急事態宣言」は店じまいしない店の「店じまいセール」のようなもの。

しかし、現実には人々はあらゆるものに反応して行動している。
2月から3月にかけて、辛うじて行動抑制が保たれたのは「緊急事態宣言」の言葉があったから。

3月中旬以降は行動拡大が極めて顕著に表れる時期だ。
卒業、人事異動のシーズン、お花見、そして春の観光シーズンとつながる。
このタイミングで緊急事態宣言を解除すれば人流は爆発状態に移行するだろう。
人流爆発は感染機会の爆発的増加をもたらす。

変異株の確認が遅れているが、確実に国内に浸透し始めている。
ワクチン接種は遅々として進まない。

新型コロナは若年健常者にとっては著しい恐怖の対象ではないが、基礎疾患を持つ人、とりわけ高齢者にとっては大きな脅威である。
1月には年率換算で死者が4万人レベルに達している。
決して「ただの風邪」ではない。

新規陽性者数が爆発的に拡大すれば、基礎疾患を持つ人、高齢者が罹患する確率は高くなる。
国が政策的に感染拡大を誘導することは間違っている。

五輪を有観客で行う場合、オリンピックだけで観客数は400万人に達する。
この人々が2週間の間に巨大な規模のGotoトラベルとGotoイートが展開されることになる。
これも感染を一気に拡大させる原因になる。

日本の主権者の圧倒的多数が中止を求めているのが東京五輪。
菅首相は自分の利益のために、緊急事態宣言を解除し、五輪聖火リレーを強行し、五輪開催を強行しようとしている。
その行動が原因で感染爆発が生じた場合には、当然のことながら、責任を取る必要が生じる。

感染爆発が生じれば五輪は中止に追い込まれる。
菅首相は辞任に追い込まれる。

「国民のために働く」というなら、まずは「感染収束」に全力を上げるべきだ。
「感染収束」を優先することによって生じる経済への打撃に関しては、政府が責任をもって補償に応じるべきだ。
73兆円もの追加財政支出を計上したのだから、十分な補償を行えるはずだ。

東京五輪は中止か無観客以外の選択肢はない。
無観客でも開催すれば、世界から1,500人以上の外国人が入国することになる。
変異株が日本に持ち込まれることは確実だ。

各国選手団による日本各地への事前合宿はキャンセルが続出している。
日本の自治体の側からのキャンセルも発生している。
五輪を開催できる条件が整っていない。

自分の利益を優先して五輪開催を強行しようとする姿勢そのものが「国民のために働か内閣」という菅内閣の基本を象徴している。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

関連記事