2024年03月29日( 金 )

世界平和に向けて(20)オンラインに切り替わる採用・研修現場 企業は今後も実習生受け入れを希望(後)

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グローバルイノベーション事業(協)
専務理事 徳丸 順一 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大にともなう入国制限により、実習生の入国が停止・延期となり、実習生受け入れ事業を行う監理団体や企業の現場に大きな影響がおよんだ。今後数年は海外との往来制限の継続が想定されるなか、実習生事業の展望などについて、(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会(小林専司会長)により設立されたグローバルイノベーション事業㈿(略称:Globa CA)専務理事の徳丸順一氏に話を聞いた。

 ――新型コロナの影響を受けて、実習が取りやめになった人たちの現状は?

グローバルイノベーション事業(協)
徳丸専務理事

 徳丸 以前、新型コロナによる受け入れ企業への影響で、実習生がほかの企業に移ったり、雇い止めとなり行き先がなくなったりしたという報道が少なからずありました。当時、実習生をほしがっていた顧客企業があり、職種など条件が合えば、困っている実習生を受け入れるつもりでベトナム側および日本側の専門サイトに問い合わせや登録をしたのですが、該当者は見つかりませんでした。なお、社内の別の部署への配置替え、あるいは組合が別の取引先の企業に受け入れ先を変更してもらったというケースはあるようです。

 実際には企業から雇い止めとなり行き先がなくなった実習生は存在しており、ベトナム政府が彼らを臨時便で帰国させているようです。ベトナム人技能実習生は約20万人と多数いることに加え、ベトナム航空やベトジェットエアの航空券は大使館経由でしか予約できない状況にあるため、帰国は難しいです。雇い止めになった実習生の帰国が優先されるため、特段の事情がない人にはなかなか順番が回ってきません。

 航空券など帰国時のコストは基本的に企業負担で、航空運賃の値上がりを受けて、実習が終わっても帰国させるのをためらう企業もあります。そのような事情も手伝って、実習生の総数はほぼ横ばいで推移しているのです。

 なお、実習期間の3年を過ぎた実習生については、在留資格が「特定活動(6カ月・就労可)」に変更されているケースが多いです。ただ、監理団体としては実習生として受け入れた以上、彼らの在留資格が変更された後も帰国するまでフォローしないといけません。ベトナムへの帰国は容易でなく、実習生のなかには帰国を熱望するあまり、精神的に不安になる人もいます。

 帰国後の隔離費用が論点となっています。ベトナムでは2週間、ホテルに隔離される際に食事付きで約10万円が必要になるのですが、この費用負担をめぐって判断が分かれています。現在は、そのコストがベトナムで発生する以上、実習生本人が負担すべきというのが、組合の緩やかな共通見解になりつつあります。とはいえ、明確なものではなく、10万円は現地の3カ月分の給与水準で実習生が支払うには高額であるため、当組合が半分負担したこともあります。支払ってでも早期の帰国を望む実習生は少なくありません。

 現時点では、送り出し機関が帰国後の費用を負担するという話は聞いていませんが、今後も今の状況が続くのであれば、送り出し機関との間で負担のあり方について議論することになるでしょう。

 ――解雇された実習生に対し、補償は行われるのでしょうか。

 徳丸 監理団体には実習生が帰国するまで世話をする義務があります。ほかの組合のケースですが、実習先の会社自体が倒産し、給料も支払われなくなってしまい、組合が住む場所を用意して実習生を引き取り、生活費を支払って、早く航空チケットを取れるように尽力したとのことです。もし、当組合の顧客企業の実習生が同様の事態に陥れば、同じように対応しないといけないと思っています。

 ――入国・隔離にかかるコストの増大を受けて、実習生の費用に転嫁される状況は発生していませんか。

 徳丸 現時点では実習生の費用負担は変わっていません。ただ、彼らから見て「期間損益」は発生しています。本来ならもっと早く行って稼げたはずであり、また実習までの待機期間は母国で正社員として働くことが許されないため、生活が苦しいという訴えをよく聞きます。待機期間中に何か援助してもらえないかと言ってきたフィリピンの実習生もいました。

 ――状況改善のために望むことは?

 徳丸 このような状況であり、実習生、受け入れ企業、組合にとって、入国再開が切なる願いです。この事業は非営利であり、実習をさせたい企業があり、日本で実習したい人たちがいて成り立っています。コロナ禍の状況下でも実習生は早く来ることを願っています。

 業界の組合には、感染予防のルールの順守を徹底することを望みます。先日、福岡のある組合で実習生が新型コロナに集団感染したのですが、このケースでは彼らが入国してすぐに発生しています。隔離期間中にルールを守っていれば、集団感染が起こるわけがありません。組合は彼らを外に出したか、同じ部屋で数人を一緒に生活させていたのか、あるいは日本人がそこに出入りしていたとしか考えられません。このようにルールをきちんと守らず、集団感染という事態を発生させてしまうと、事情を知らない人が「外国人を入国させるから、コロナが広がる」という間違った印象をもってしまいます。隔離には手間も労力もかかりますが、きちんと行うことが業界の今後のために求められます。

(了)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
徳丸 順一
(とくまる・じゅんいち)
1977年生まれ、福岡県久留米市出身。福岡県立明善高校、大阪外国語大学卒、グロービス経営大学院修了(MBA取得)。大手電器メーカーの海外駐在員(ベトナム、メキシコ)を経て、2018年グローバルイノベーション事業㈿を設立、専務理事に就任。

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