2024年04月20日( 土 )

【凡学一生の優しい法律学】ワクチン狂騒曲(後)

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治験制度の問題点―ひいて日本の薬事行政の問題点

 薬剤に関する科学知識や知見の水準は、かつて「万能薬」が平気で横行していた時代からは想像もできないほどに進歩した。これは、薬理に関する科学研究や薬事行政における承認制度が進化した結果でもある。しかし、治験制度には、「万能ではない」という根本的な欠陥がある。

 その1つが、多剤併用の弊害を防ぐことができない点だ。治験制度は単剤使用を前提としているため、多剤併用における相互作用については、まったく未知、不明である。高齢の通院患者が複数の疾患を抱えている場合、疾患ごとに異種の治療薬が投与されるため、必然的に多剤併用者になる。ある意味では、日本は「多剤併用実験の最先端国」かもしれない。

 次に、今回の新型コロナウイルス感染症のように、急性疾患に対する治療薬の治験制度となっていないことだ。加えて、今回のファイザーのメッセンジャーRNAワクチンは遺伝子工学を駆使したもので、従来の生ワクチンとは「異次元」の薬剤である。

 正確にいえば、新型コロナウイルスの増殖を直接制圧、死滅させるものではない。ウイルスが人間の生体内に疑似的に侵入した状態をつくり出す、つまり人間自身の細胞が疑似的に新型コロナウイルスを産生し、生体内の抗体産生を促すという仕組みである。

 これにより、生体内でつくられた疑似新型コロナウイルスの量や活力をコントロールし、適切な抗体産生を行うとされるが、あくまで理論の世界である。疑似新型コロナウイルスによって産生された抗体が実際のコロナウイルスの侵入や防御に薬剤として有効かどうかは、この段階では確認しようがない。

 新型コロナウイルス感染症の症状は比較的に短期間で消えてしまうため、感染しても治療効果があった場合と、感染しない状態を区別し、その有効性を示すことができない。つまり、ファイザーワクチンの有効性を科学的に証明することは永遠にできない。ところが、ファイザーは6万人のワクチン投与群と同数の無投与群の感染状況を比較して、感染者比率が1対96の比率となったことから、その有効性は96%であると世界に公表した。

 治験の科学的信頼性を学んだ者にとってはとんでもない暴論であるが、日本の規制当局も治験責任医師経験者らも誰1人として、異論を述べることはなかった。これほど日本の公務員や学者が「内弁慶外すぼり」である事実を見せつけられると、日本の科学水準は画餅ではないかと感じる。

 かつての日本の薬事行政は「三た主義」であった。「投与した。治った。効いた。」という、極めて単純な有効性判断基準であった。一方、ファイザーは「本当に投与したかもわからない6万人もの被験者」と「単純に投与していない適当な6万人」の新型コロナウイルス罹患率を比較して、96%の有効性が認められると主張した。ファイザーの論理は、科学的治験制度が主張された際に放逐された「三た主義」より、はるかに劣悪である。

 厳格な科学的治験を実施した経験のある筆者は、6万人もの被験者にどのように説明して治験に参加してもらったのかという大きな疑問を抱いている。

 効果が証明されていない薬について、6万人もの被験者へのインフォームドコンセントが本当に成立しているのか。まさか、「薬の提供が無料で受けられる」と宣伝して貧困で無知な被験者を募ったのであれば、世界的にも人倫に反し、非難に値する。

 科学的有効性は、プラセボ群とまったく同じ条件において判断されるのであって、ワクチン投与群と無投与群を単純に比較することはあり得ない。このようなとんでもない非科学的かつ恣意的な「治験」結果を用いた安全性や有効性の主張は、日本では絶対に起こり得ない。まるで黒船が来襲し、武力を背景にして強引に日本を開国させた歴史を思い起こさせる。

 日本での治験は、厳格な倫理委員会の承認と監視の下で医師が医療機関で実施することしかできない。ファイザーは、どの国で誰が治験を行ったのだろうか。投与後に厳格な医学的観察が必要なことを考えると、6万人もの適正な被験者を短期間に募集すること自体が不可能である。治験の実施状況がまったく不明であるにもかかわらず、日本政府はやすやすと承認してしまった。

 最後に、ファイザーワクチンの有効性は永久に証明不可能であることを指摘したい。新型コロナウイルス感染はやがて収束するだろうが、それがウイルス自身の生物的寿命によるものか、ワクチン投与の結果かということを誰も証明できないからだ。

<追記>

 九州大学の薬学部の研究班は、抗うつ薬の一種が極めて高い比率で新型コロナウイルスの生体内侵入と生体内での増殖を抑制する効果があり、今後、日本の治験制度に従い医薬品(治療薬)としての完成を目指すと発表したことが報道された。もし、同剤が承認されれば、予防薬としてのワクチンの有用性はほぼ消滅し、ファイザーは文字通り、三日天下の運命となるであろう。

(了)

(中)

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