2024年03月29日( 金 )

宣言解除大丈夫答弁の責任問われる日

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「感染第4波が勢いをつけ始めており、緊急事態宣言を解除して大丈夫とした菅義偉氏の国会答弁の意味が問われる責任を問われる日が近づいている」と訴えた3月28日付の記事を紹介する。

菅義偉首相は起死回生大逆転を狙う最後のギャンブルにも負ける可能性が高い。
原因は菅義偉氏の反知性主義にある。
菅義偉首相は緊急事態宣言を、3月21日をもって解除した。

解除に際して国会質疑で
「本当に大丈夫か」
との質問に遭った。

菅首相は
「大丈夫だと思う」
と答えたが、科学的根拠を示さなかった。

菅首相が述べたのは
「新規感染者数が減った、医療のひっ迫度が低下した」
ということだけで、感染が今後も減少する根拠を示さなかった。

新規陽性者数は3月10日ごろから再拡大に転じている。
感染の増減と強い因果関係を有するのが人流の増減。
人の移動は12月11日ごろから明確に減少し、12月31日にボトムを記録した。

1月末までは低水準を維持したが、2月中旬から増加に転じた。
この人流拡大から3週間のタイムラグをともなって3月10日ごろから新規陽性者数が再拡大に転じた。

3月21日以降、人流が季節的に拡大する時期にさしかかる。
卒業式、卒業旅行、歓送迎会、花見、学校の春休み、春の旅行シーズンが重なる。
自粛で蓄積された外出欲求が一気に爆発する可能性も高い。

この状況下で緊急事態宣言が解除されれば、人流が爆発的に拡大する可能性が高い。
さらに、変異株の影響も懸念される。

12月中旬に英国で変異株が確認された。
直ちに強固な水際対策が必要だったが、菅義偉氏が強く反対して入国規制の強化が実現しなかった。
ビジネストラック、レジデンストラックの入国が停止されたのは1月13日になってから。
変異株が感染拡大の中心になり始めている。

菅義偉首相は感染拡大防止策として5つの柱を示したが、これらは感染拡大を防止する施策ではない。

5つの柱とは
「飲食を通じた感染防止対策」
「変異株の監視体制の強化」
「感染拡大の予兆をつかむための戦略的な検査の実施」
「安全・迅速なワクチン接種」
「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」
である。

飲食を通じた感染防止対策はもっとも重要な施策だが、3月21日以降は、この対策が緩和された。
感染拡大防止ではなく、感染拡大推進になっている。
ワクチン接種は遅々として進まない。
7月までに実施されるワクチン接種は限定的規模にとどまる。

監視体制の強化、検査の実施、医療体制の強化、は感染拡大を抑止する施策ではない。
このなかで、菅内閣は緊急事態宣言を解除した。

新規陽性者数は明確に再拡大を示している。
季節的要因も加わり、大都市圏から全国各地への旅行者が急増している。
感染が拡大している地域からウイルスが日本全国に拡散されている。
五輪「聖火リレー」は多くの密集を生み出している。
菅内閣が感染拡大推進策を実行しているわけだ。

4月から5月にかけて感染爆発が生じれば、東京五輪は中止に追い込まれる可能性がある。
菅首相は六度目のギャンブルに出て完全に討ち死にする。
この場合は、首相辞任しか道はない。

反自公陣営にとっては菅首相続投が選挙戦術上有利だが、菅首相は引責辞任せざるを得ない状況に追い込まれる。
物事が論理的整合性をもって進むなら、菅首相がギャンブルに負けて辞任に追い込まれる可能性は高いと考えられる。

コロナで若年の健常者が重篤化するリスクは高くないが、コロナに対する警戒が不要ということにはならない。
日本でも1月にはコロナ死が年率換算で4万人に達した。
「ただの風邪」と高を括るわけにはいかない。

著名人でも、志村けん氏、岡江久美子氏、岡本行雄氏、高田賢三氏、羽田雄一郎氏などがコロナで亡くなられている。
必ずしも重篤な基礎疾患を有していたとは限らない。
コロナを軽視するわけにはいかない。

不幸中の幸いで、東アジアでのコロナ被害は軽微である。
欧米に比べるとケタ違いの被害の小ささだ。
しかし、それでも感染が拡大すれば、年率4万人以上の死者発生という事態に追い込まれる。

菅首相はGotoを優先して感染爆発を招いた。
その代償は極めて大きなものになった。
感染拡大が推進されなければ命を失わずに済んだ人が多数存在するということになる。
菅首相の責任は重大だ。

3月21日の緊急事態宣言終了を強行した理由は五輪優先にある。
聖火リレーを無理やりスタートさせるために緊急事態宣言を解除した。
考え方が「本末転倒」だ。

世の中に役立てるために五輪が存在するのであって逆ではない。
五輪開催強行が世の中に害悪をもたらすなら、五輪を断念するしかない。
これが正しい考え方だ。

ところが菅内閣は聖火リレー実施を強行した。
大多数の国民が不信に感じる「不審火リレー」だ。
この「不審火リレー」が多数の密を創出して感染拡大に拍車がかかる。

緊急事態宣言解除によって人流は拡大し、感染拡大の原因になる多人数での会食機会が急増している。
これが3週間の時間差をともなって感染爆発をもたらす可能性は高い。

緊急事態宣言を解除するには、
1.感染減少傾向が維持されていること
2.新規感染を抑止する方策が実行されること
3.感染拡大時の病床を確保する明確な方策が示されること
の3つが必要だったが、1つも用意されなかった。

病床不足は菅内閣の医療マネジメント失敗、医療マネジメント無策がもたらしたもの。
全国の国立病院、公立病院、国公立大学病院のコロナ病床確保が優先されるべきだ。

政府の指導力によって、これら国公立病院・大学の病床をコロナ病床として確保する施策が必要だが、ほとんど実行されていない。
再び感染爆発が生じれば、再びコロナ放置死が多発することになる。

コロナ収束に成功している台湾、ニュージーランド、オーストラリアでは、「検査と隔離」の基本が重視されてきた。
広範な検査で陽性者を特定する。
その陽性者が感染を拡大させない措置を取る。
これを徹底することによってコロナ収束に成功してきた。

ところが、日本政府は検査を拡充せず、陽性者を放置してきた。
そのうえで、GoToトラベル、Gotoイートによって、人為的に感染拡大を推進した。
結果としてコロナ収束どころか感染爆発を引き起こした。

世界的な感染波動に日本も従うために、1月初旬をピークに感染第3波は縮小したが、コロナ収束を実現する前に菅内閣が感染拡大推進にかじを切った。
そのためにいま、感染第4波が勢いをつけ始めている。
感染再拡大が明瞭になるとき、菅義偉氏の国会答弁の意味が問われることになる。

「いま宣言を解除して本当に大丈夫なのか」
「大丈夫だと思います」

この答弁の責任を問われる日が近づいている。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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