2024年04月24日( 水 )

精神科救急病棟を開設 地域医療を支え続ける老舗病院~油山病院

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
(医)泯江堂(油山病院) 理事長 三野原 義光 氏

 1749年創業の老舗である(医)泯江堂。精神科の油山病院を中心に幅広い医療サービスを展開し、患者の入院・通所治療から必要に応じて就労支援まで行う。福岡市で2番目となる精神科救急病棟を開設し、パーソナリティー障害を抱える患者への診療を充実させるなど、新たな取り組みにも挑戦。最適な医療サービスの提供を通じて、地域医療を支え発展させる役割が期待されている。

(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 児玉 崇)

創業270年の老舗にして最先端の精神科病院

三野原理事長
(医)泯江堂(油山病院) 理事長 三野原 義光 氏

 江戸時代の1749年、三野原文菴氏が現在の福岡県糟屋郡篠栗町に医院を開業したのが起源。62年、9代目の敏治氏が精神科医療の必要性を感じ取り、(医)泯江堂を設立、福岡市早良区野芥に三野原病院の分院として油山病院を開設し、現在に至る。三野原義光理事長は分院としては3代目、泯江堂創設から11代目となる。職員数は泯江堂全体で約370人、油山病院で約280人で、常勤医師14人と非常勤を合わせて25人の医師が診療に従事する。入院病棟は精神科235床、内科45床の計280床を備える。

 油山病院は最先端の精神科医療を提供している。2001年に精神科急性期治療に特化した病棟の運営を開始。17年に応急入院指定病院の指定を受け、18年に精神科救急病棟(55床)を開設した。精神科救急病棟は24時間365日体制が要求され、認可のハードルは非常に高く、福岡市では雁の巣病院に続き2番目。開設の背景には、三野原理事長が地域のニーズを読み取ったことと、病院経営をより安定させることがあった。

福岡 油山病院 待合室 病棟
右:待合室/左:病棟

 同院が注力する医療サービスの1つに、パーソナリティー障害を抱える患者の治療がある。これは、患者に継続治療を行う精神科リハビリテーションの専門家である三野原理事長と入澤誠院長の経験・知見を生かした取り組み。同疾患の国内有数の専門家を常勤医師として抱えることによって実現した。

 パーソナリティー障害とは、生きづらさを抱え、それを言葉でうまく表現できないため、体に症状が表れたり、リストカットなどの自傷行為、非社会的な行動を起こしたりする障害を指す。通常の精神科診療では十分に対応できず、問題が発生しやすいが、入院治療を行う病院は全国でも少ない。同院は「精神分析的グループ療法」に基づき、同じ症状の患者、看護師、作業療法士によるグループミーティングなどを通して、患者が自身の思いや認識を言葉で表せるように支援している。

 同院には精神分析療法の大家と呼ばれる医師2人が常勤で勤務している。精神分析に基づくカウンセリングや精神療法は、10~15年にわたる長丁場の治療の入り口。膨大な時間とエネルギーを必要とするが、自分たちがやるべきだという思いで治療にあたっている。ハードウェア面では、九州初の最先端医療機器やうつ病診断の光トポグラフィー検査など、大学病院も臨床で使用していない機器・技術をいち早く導入している。

地域へ長期的で幅広い精神科医療サービスを提供

 泯江堂は油山病院を軸に、長期的で幅広い医療サービスを地域へ提供している。1万7,626m2の広大な敷地に、同院および「介護老人保健施設からざステーション」「訪問看護ステーションあいりす」「居宅介護支援事業所ケアセンターのぞみ」「グループホーム サンライズ荘」(精神障がい者対象の共同生活援助事業)を運営する。デイケア、訪問看護、グループホームを組み合わせて、退院した患者へのフォローアップを実施。通院が困難な患者に向けても良質な医療サービスを提供している。

 こうした取り組みにより、患者を自宅内外でフォローして再入院を減らし、患者の能力回復・リハビリを経て、作業所への通所、就労支援へという流れをシステム化した。訪問看護は要請に応じて24時間対応し、外来以上の収益を上げるまでになった。

福岡 油山病院 外観
油山病院外観

 精神科医療の性格上、医師や看護師らは平日の日中以外の時間にも対応が求められるため、従業員用の保育施設も設置。現在は福岡市認可保育園「泯江堂エンゼル保育園」として、地域も対象に含めて保育サービスを提供している。

 油山病院は約60年、「地域住民のメンタル面で役に立ちたい」と努力を重ね、地域での知名度は抜群だ。「世間で敷居が高いとされる精神科病院について理解してもらうきっかけ」にしたいとの思いから、オープンホスピタル「みんみん祭」を毎年10月に実施し、市民に開放している。

コロナ禍の精神科医療

 コロナ禍で患者が通院を控える傾向が見られるなか、同院ではPCR検査(5~13分で結果判定)の体制を整え、患者も職員も安心できるようにしている。患者はPCR検査と肺のCT撮影を行い、個室で1週間過ごした後、再度のPCR検査を経てから診療に入るという非常に厳しい感染対策を敷いている。幸いに、これまでに陽性反応が出た患者は1人もいない。

 企業にとって従業員のメンタルヘルスは大事であり、コロナ禍のテレワークなどによって仕事以外で人と接触する機会が減るなか、ストレスをため込んでいる人も多いとみられる。三野原理事長は、今こそ必要な人に精神科の門を叩いてほしいと願う。「相談に乗ってもらうことで気持ちが楽になる患者も多い。うつ状態に入り込むと、周囲の人が止められなくなり、最悪自殺という事態に至ることもある。コロナ禍で社会が病んでいくなか、自殺者が増えており、なるべく1人で悩みを抱え込まないでほしい」と呼びかけている。

【文・構成:茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
理事長:三野原 義光
所在地:福岡市早良区野芥5-6-37
設 立:1962年3月
事業収益:(20/3)26億6,876万円


<プロフィール>
三野原 義光
(みのはら・よしみつ)
1989年埼玉医科大学卒、福岡大学医学部精神医学教室入局。96年福大精神医学教室助手。99年油山病院医局長、2002年同院長を経て、07年(医)泯江堂理事長。20年4月から理事長職に専念。精神科医、精神保健指定医、福岡市精神医療審査会委員。

関連記事