2024年04月20日( 土 )

【マンション管理を考える】「吉」と出るか?神戸市タワマン規制(中)

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 神戸市は2020年7月、市中心部に当たる三宮駅周辺でのいわゆるタワマンの立地に規制をかける改正条例を施行した。規制緩和によって誕生したタワマンに対して再び規制をかけるという点で、画期的な試みだったが、不動産関係者などから「時代に逆行するものだ」と批判の声が挙がるなど、波乱含みのなかでのスタートとなった。タワマン規制施行から半年を経て、どのような動きがあったのか。市担当者に取材した。

神戸の玄関口に住宅はいらない(つづき)

 久元市長は19年5月16日の記者会見で、川崎市の人口が神戸市を超えたことに関する質問に対して、こう述べている。

 「この近年における川崎市の人口の増加というものが、中原区の武蔵小杉を中心とした高層タワーマンションの増加に支えられている面が大きいわけです。神戸市は、高層タワーマンションを林立させることによって人口の増加を図るべきではないというふうに考えております。特定の極めて狭いエリアに人口が集住するというまちの姿というものは、長い目で見てさまざまな問題を引き起こします」。

記者会見でタワマンを否定する久元市長(YouTubeより)
記者会見でタワマンを否定する久元市長(YouTubeより)

 特定の居住形態について、自治体のトップが明確に「否定」するのは珍しい。市の人口減少は食い止めたいが、「タワマンだけはダメだ」という久元市長の考えを明確に打ち出した発言だった。

 久元市長は再三、「神戸を大阪のベッドタウンにしたくない」という趣旨の発言を繰り返してきた。ただ、「大阪のベッドタウン化」を示すエビデンスがあったわけではない。「ここ数年の中央区への転入者を調べてみると、むしろ西区など市内からの転入が多い」(市担当者)からだ。そもそも同市東灘区の住吉、御影などのエリアは、1900年代以降、大阪の豪商が相次いで邸宅を構えたことをきっかけに、現在も高級住宅地として存続している。

 これを踏まえると、久元市長発言は意味不明だが、「三宮駅周辺という都心には、オフィスや商業施設が集積すべきであり、居住するなら、都心ではなく郊外が望ましい」というものだとすれば、一応理解はできる。「郊外のもともと何の集積もなかった場所であれば、タワマンが林立しても許容できるが、神戸の玄関口に住居ばかり立ち並ぶのはまかりならん」という言い分は説得力があるからだ。ただ、仮にそうだったとしても、ベッドタウン発言はミスリードを招く不適切な発言だったと言わざるを得ない。

表向きはインフラのキャパ不足だが…

 タワマン規制には、一応合理的な理由付けもある。その1つが小学校のキャパ不足だ。特定の学区内に子育て世代が大量に転入したことにより、既存の教室が不足した。市ではこれまで、仮設校舎を増設し、何とか対応してきた。「行政としてそれぐらい対応すれば良いじゃないか」という気もするが、トップダウンということもあり、市としては「これ以上の児童増加には対応できない」という判断に至ったようだ。このほか、災害時の避難場所や備蓄量の確保なども理由として挙げているが、これらも同様のプロセスをたどって判断が下されたのだろう。

 タワマン規制の理由として、数少ない説得力のあるものとしては、「タワマンによって地域コミュニティが損なわれる」というものがある。一般的にいって、タワマンでは、住民同士のコミュニケーションが希薄になりがちだ。タワマン住民同士のコミュニケーションすらままならないのに、周囲の住民とのコミュニケーションがとれるとは考えにくい。市担当者によれば、あるタワマンでは、住民が周辺の商店などで買い物をすることはほとんどないという調査結果があるらしい。地元自治会にとって、タワマンは何かと厄介な存在のようだ。

 タワマン、住宅の立地に規制をかけたのは、神戸市が初めてではない。横浜市が06年4月、高層マンション建設増などによる居住人口増にともなう業務・商業などの都市機能の低下を問題視し、横浜都心機能誘導地区建築条例を制定。横浜駅、関内駅周辺それぞれを対象に特別用途地区を指定し、全国の自治体で初めて機能誘導に乗り出した。

 横浜市の場合は、駅に近いエリアを業務・商業専用地区、駅から離れたエリアを商住共存地区に指定した。業務・商業専用地区では、住宅などの立地を禁止。商住共存地区では、住宅の立地は可能だが、原則容積率300%の制限をかけている。違反した場合は50万円以下の罰金を科すという厳しいものだ。神戸市の住宅規制は、横浜市の事例を参考にしていると考えられる。

神戸市のまち並み(写真:一般財団法人神戸観光局)
神戸市のまち並み(写真:一般財団法人神戸観光局)

(つづく)

【フリーランスライター・大石 恭正】

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