2024年04月20日( 土 )

【マンション管理を考える】神戸市の支援制度でマン管どう変わる

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 神戸市は3月1日、市内分譲マンションの管理適正化を目的に、管理組合に対して管理状況を届出させ、その情報を基に助言や支援を行うほか、情報そのものをホームページ上で一般公開する制度をスタートさせた。マンション管理状況の届出は東京都についで全国2例目。情報開示は全国初となる。神戸市がこの届出・情報開示制度をスタートさせた理由は何か。制度運用によってマンション管理はどう変わるのか。神戸市に取材した。

管理状況の評価は見送り

神戸市マンション管理支援制度の概念図(神戸市資料より)
神戸市マンション管理支援制度の概念図(神戸市資料より)

 神戸市は2019年7月、マンション管理支援制度検討会(会長:戎正晴・弁護士、明治学院大学客員教授)を設置。適切なマンション管理に向けた支援策などに関する議論をスタートさせ、20年3月にとりまとめを行った。

 このなかで、「市が管理状況を把握する仕組み」「適正に管理することが区分所有者のメリットとなるインセンティブ」「管理状況が市場で評価される仕組み」の3つを実現するため、届出制度、情報開示制度の創設が提案された。市は検討会がとりまとめた内容を基に、20年12月に「神戸市マンション管理の適正化の推進に関する要綱を策定」。この要綱に基づき、21年3月、制度運用をスタートさせた。

 マンション管理は、管理組合が自主的に行うのが原則で、自治体が管理状況について情報を把握する仕組みはなかった。神戸市が把握している市内のマンション戸数は約20万戸、管理組合数は約3,500で、住宅総数の4分の1を占めている。このうち、約3割が築35年以上の古いマンションだと考えられているが、それらがどれだけ適切に管理されているかは把握できない状況が続いていた。

 届出制度では、届出項目として、マンション名、戸数、築年数、管理委託の有無、法人化の有無など基礎的な情報をはじめ、管理主体(管理組合、管理者)や管理規約、総会開催、修繕積立金、大規模修繕の有無といった管理状況に関する事項などが盛り込まれた。情報開示制度は、管理組合の希望に応じて、市のホームページで公開し、購入希望者などが閲覧できるようしている。検討会では、届出された管理状況を市が評価する意見もあったが、評価基準の設定が難しいことなどから見送られた。

 届出を行うのは、管理組合理事長、管理者、区分所有者のいずれかで、届出には管理組合の決議が必要になる。区分所有者が届出する場合は、区分所有者の過半数の同意を得る必要がある。情報開示する内容の取り扱いは、管理組合の希望に応じ、(1)届出項目を開示(1年間)、(2)所在地・マンションのみ開示(3年間)、(3)開示しない――の3つから選択するかたちをとった。

 適正な管理、再生を支援するために、市は、神戸市すまいとまちの安心支援センター(すまいるネット)をはじめ、マンション管理士や管理会社、住宅支援機構と連携し、管理組合が主体的に適正管理できるサイクルを構築している。

 国土交通省でも、20年6月に公布された改正マンション管理適正化法の22年6月全面施行に向け、管理適正化に関する基本方針や管理計画認定制度づくりなどについて、20年7月から議論が行われている。今回の神戸市の制度とほぼ同趣旨の制度だが、神戸市の制度は独自に検討を始めたもので、事前に話し合いや情報交換が行われたわけではない。

 この点、久元喜造・神戸市長は定例会見で、「(全面施行を)先取りするかたちで(制度を)つくった」と説明している。国の制度づくりを待って、市としての制度をまとめる方がスムーズだと思われるが、結果的に先取りするかたちになった。

管理不全をあぶり出す

管理状況届出書の見本
届出書の見本

 管理状況を任意で届出させ、それを一般公開することで、どれだけの効果があるのかという素朴な疑問が湧く。神戸市を含む全国のほとんどの自治体はこれまで、管理状況に関する情報を把握しようとしてこなかったし、実際に把握していなかった。どれだけ大きなマンションであったとしても、あくまで個人の私的財産の集合体であって、公共の建物ではない。そうである以上、その管理状況について行政が直接関与することはできないからだ。市担当者は、管理組合などに対し届出を求めることだけでも、「行政としてかなり踏み込んだ取り組みになる」と指摘する。

 これまでオープンになっていなかった「生の情報」を開示することで、マーケットからそれなりの反応があることが期待されるというわけだ。だとすれば、届出を任意とし、義務にしなかったことには疑問が残る。任意を良いことに、届出ない管理組合も出てくるだろうからだ。ちなみに、東京都の場合、届出は義務化されている。

 この点、「届出がないマンションには、各戸へのポスティングなどを通じて、管理状況を把握していくつもりだ」と話す。届出というステップを設けることによって、ちゃんと管理しているところとそうでないところが、ある程度あぶり出せるというわけだ。

まず管理組合の腰を上げる

 届出を基にそれなりに管理状況が把握できたとして、市として、どういうメニューで管理組合を支援していくか、マンション再生にどうつなげるかは、次のステップでの大きな課題になる。管理組合に金がなければ、行政として手の打ちようがないからだ。おそらく管理組合が最も希望するであろう資金援助や融資をすることはそもそもできない。

 さらに、3,500に上るすべての管理組合を支援するには、市のマンパワーが絶対的に足りない。支援できるとすれば、所有者間の合意形成に関するアドバイス程度に止まるだろう。「マンション再生、建替えをどう支援するかは非常に厳しいハードル。今のところ、検討中としかいえない」(神戸市担当者)と言葉を濁す。

 「今回の支援制度は、管理組合に対する1つのメッセージ発信。まずは管理組合などに情報を出してもらうのが、当面の課題。そのうえで、行政として何ができるのか整理していきたい」(神戸市担当者)。支援制度の狙いは、腰の重い管理組合にしっかり動いてもらうことにあるようだ。支援制度は始まったばかりだが、最初からおよび腰では、管理組合もうまく乗ってこないだろう。そうならないためには、支援制度に実効性のあるインセンティブを組み込めるか。これがカギになってくると思われる。

【フリーランスライター・大石 恭正】

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