2024年04月26日( 金 )

NHKが腐敗するメカニズム

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「NHKこそ、五輪開催の是非を大いに論じるべきだ」と訴えた4月9日付の記事を紹介する。

この国の特異体質がクローズアップされている。

英紙ガーディアンの東京特派員はツイッターで、
“The Tokyo 2020 Olympics grow more grotesque by the day(※)”
と評した。

日本政府が医療従事者、高齢者よりも先に東京五輪に出場する日本代表選手に対して、新型コロナウイルスのワクチンを接種することを可能とする方向で検討に入ったという報道に対しても批判が沸騰した。
批判を受けて五輪担当相は報道内容を否定した。

丸川珠代五輪担当相は
「IOCと我々(日本政府)は、ワクチンを前提としない大会として準備している」
と述べた。
しかし、この「ワクチンを前提としない大会」が恐ろしい。

日本でいま、感染第4波が拡大中だ。
昨年12月に英国で変異株が確認された。
直ちに日本政府は外国人の入国規制を厳格化すべきだった。
しかし、これを阻止したのが菅義偉氏である。

12月28日に決めた対応策はかたちだけのザル対策。
外国人入国の太宗を占めるビジネストラック、レジデンストラックを規制対象外にした。
この措置を1月13日まで引っ張った。
菅氏は両措置を、当該国で変異株の国内感染が確認されたら停止するとの方針を示した。

菅首相の反知性主義は恐るべきもの。
変異株の流入を「未然に」防ぐのが水際対策の目的。
「国内感染が確認されたら入国を停止する」という言葉は、菅氏が「水際対策」の意味をまったく理解していないことを示している。
外国人の大量入国が放置されて変異株はフリーパスで日本国内に流入したと見られる。

菅義偉氏は3月21日に緊急事態宣言を終結させた。

日本における人流は12月31日に最低値を記録。
1月中は低水準で推移した。
しかし、緊急事態宣言解除の思惑が浮上するのに連動して増加に転じた。

2月中旬からは明確に増勢を示し始めた。
人流変化が新規陽性者数変化につながるまでに3週間の時間がかかる。

日本におけるコロナ新規陽性者数は3月8日に最低値の599人を記録した。
しかし、3月9日以降は増加に転じた。
さらに、緊急事態宣言解除の動きを受けて人流が一段増勢に転じた。

3月下旬にかけて、花見、歓送迎会、卒業旅行、各種行楽で人流が急拡大する。
このことが明白な状況下で3月21日をもって緊急事態宣言を解除した。
理由は3月25日に聖火リレー始動が予定されていたこと。
緊急事態宣言下での聖火リレーは海外での反響を踏まえて避けなければならないと考えたのだろう。

この事情から宣言解除を強行した。
その結果、想定通り、人流が急拡大した。

人流が最高値を記録したのは3月26日。
3週間後の4月中旬には新規陽性者数増加となって影響が表出するだろう。
しかも、感染の中心が変異株に移行している。
感染力と毒性が強く、ワクチンが利かないとの疑いが指摘されている。

先行して宣言解除に突き進んだ大阪府は医療非常事態宣言発出に追い込まれた。
3月の緊急事態宣言解除が致命的な誤りだった。
この緊急事態下で密集・密接を人為的に創出するスポンサーの車列が大音響をともなって行進する「商火リレー」が強行されている。
菅内閣、五輪組織委員会、利権スポンサー、利権メディアの醜態は言葉で表現し尽くせない。

しかし、ここで見落とせないのが市民の沈黙。
市民の沈黙は権力の暴走容認を意味してしまう。
市民が立ち上がり、声を挙げるべき局面だ。

「同調圧力」という言葉があるが、「同調」というより、この国では「お上」にひれ伏す行動様式が幅を利かせ過ぎている。
この行動様式をもたらす原因を、私は「お上と民の精神構造」と呼んできた。

精神科医の和田秀樹氏はトラウマに関して
「あまりにもひどいことをされたら加害者のいうことを聞くようになる。
たとえば子どもが親からひどい虐待を受けると、親の機嫌を取るようになる。
『サレンダー心理』といって、無抵抗の状態に陥ってしまう。
日本は原爆を落とされ、アメリカにサレンダー状態にされてしまった。
そのため従順になってしまったんだと思う」
と指摘する。

https://bit.ly/3s59tHn

日本の「民」は「お上」から残虐な扱いを受けて、「お上」に対して無抵抗の状態に陥っている。

戦後民主化で建前上は国民主権とされたが、官僚による支配構造は温存されたまま。
政治権力は警察権力、検察権力、裁判所権力を支配して「恐怖による支配体制」を敷いている。

「サレンダー心理」に追い込まれたままの国民は、政治権力の機嫌を取るようになってしまった。
この「民の精神構造」が根付いているために、海外から笑いものにされる権力者の醜態が目の前で演じられていても、これを打破できなくなっている。

メディアの本来の役割は「社会の木鐸」。
「木鐸」とは、昔の中国で法令などを市民に触れ歩くさい鳴らした大きな鈴のこと。
メディアが社会に向かって警鐘をならし、社会の行く手を示すのがメディアの本来の役割だ。

ところが、そのメディアの大半が腐ってしまっている。
腐敗の極致はNHK。
NHKこそ、五輪開催の是非を大いに論じるべきだ。

五輪開催賛成論があってもよい。
しかし、一方に五輪開催反対論がある。
聖火リレーを喜ぶ人がいる一方に、聖火リレーを中止すべきと訴える人がいる。

放送法第4条に
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」
という条文が置かれている。
NHKはまったくこれを守っていない。

コロナの感染拡大抑止を報道しながら、聖火リレーの密について、なぜまったく触れないのか。

現在の放送法を悪用すると、政治権力はNHKを完全支配できてしまう。
NHKの最高意思決定機関である経営委員会委員の任命権を内閣総理大臣が有している(第31条)。

同条には、NHK経営委員を
「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから」
任命するとの規定が置かれているが、表現が抽象的であるから、実質的に無視することができる。

NHK会長は経営委員会が任命する。
NHK会長は経営委員会の同意を得て副会長と理事を任命する。
NHKの重要業務の執行は会長、副会長、理事によって構成される理事会の審議の下に置かれる。

つまり、内閣総理大臣はNHK経営委員会委員の人事権を通じてNHKを実効支配できる。
現に、安倍晋三氏、菅義偉氏は、この手法でNHKを私物化してきた。
NHK職員は「皆さま」のためではなく、「あべさま」や「すがさま」のために行動する。
これがNHK腐敗のメカニズムだ。

日本を立て直すには、主権者である市民が、主権者であることを自覚し、権力者に対して堂々と正論を主張することが必要不可欠。
いま、何よりも問われているのは市民の矜持と行動である。

※ 東京五輪は日に日にグロテスクになる一方だ。


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植草一秀の『知られざる真実』

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