2024年03月29日( 金 )

【縄文道通信第65号】縄文文化―音楽とオノマトペ~縄文道――武士道――未来道

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 Net-IB Newsでは、(一社)縄文道研究所の「縄文道通信」を掲載していく。
 今回は第65号の記事を紹介。

縄文人の音楽と言葉

 縄文人は自然のなかで、自然の摂理に従って生き続けてきたことからも、体の内からの声を音楽として自然に発していたことは想像できる。世界的言語学者のノーム・チョムスキー博士が指摘するように、世界のすべての未開地の民族が文化の違いはあるが、固有の言語をもち、言語を所有していたということは、民俗学的に立証されている。

 縄文人はコミュニケーションを音声で図っていたが、自然との関わりで次のようなオノマトペを使用していたと思われる。

 太陽― さんさんと日が降りそそぐ ぽかぽか あたたかい
 星―― きらきらと輝く
 風―― そよそよと吹く  ビュンビュン と 吹き抜ける
 水―― さらさらと流れる  ぴちゃぴちゃ ぐっちょり
 雨―― しとしと と 降る
 雷―― ごろごろ と 鳴る
 蟲―― ころころ と 鳴く みんみん と 鳴く

 人間の喜怒哀楽や生活ではどうであろうか。

 笑う ――にこにこと笑う かりかり と 怒る
 元気 ――いきいき と  らんらん と 輝く
 疲れる――ふらふら だ
 食べる――がばがば と食べる

 小学館の発刊した「日本語オノマトペ辞典」によると、実に約4,500語のオノマトペが掲載されている。小野正弘氏の編集だ。

 日本には大和言葉がある。漢字、外来語を除く本来の和語である。

 うみ  やま  さと  そら  くも
 ありがとう  さようなら  おもてなし  そこそこ
 たおやか  いとおかし  概ね  きよらか
 おもむき  おもかげ

 日本人は縄文時代からオノマトペを駆使し、やまとことばを発して、約14,000年という長い期間で世界史においても極めて稀なる文化を形成してきた。

 オノマトペと大和言葉は非常にやわらかく、気持ちがよく表現されている言葉で、現在の日本語においても、日常生活の中で我々が慣れ親しんでいる。上記の和語は大和言葉で、日本語の原型を形成しているが、現在も日本人の誰もが日常的に使用している言葉だ。

 縄文人であるアイヌ人は、多くの物語を代々伝承してきたことで知られている。親が語る物語を耳から音として取り入れ、咀嚼して次の世代に脈々として伝えてきたのだ。音を介していたために、音楽も当然存在していた。

 世界的なパーカッショ二ストで天才的ドラマーと言われている土取利行氏は世界の民族音楽を訪ね歩いた異能な音楽家として知られている。土取氏は二十数年にわたって縄文音楽を研究してきた。土取氏の研究は音楽家としての視点であるが、徹底的に極めており、なかでも甲斐駒ヶ岳から八ヶ岳近辺の縄文遺跡を訪ね、有孔鍔付土器に対面して感じた直観力がすばらしい。この土器は「太鼓」に使われていたという。

 土取氏の直観力は、岡本太郎画伯が1951年に東京・上野の国立博物館で縄文土器と出会って感じた、土器から発する固有の生命力とダイナミズムの延長線上にある独特な感性からであった。形状と大きさと口縁部に皮を被せれば見事な太鼓になると連想したのである。

 土取氏は、有孔鍔付土器を専門の陶芸家にたくさん制作させ、美濃の奥地の大自然のなかで、縄文人に成りきって見事な太鼓演奏を行っている。世界的な天才ドラマーは、若い時にはニューヨークで坂本龍一氏、阿部薫氏らとともに音楽活動を続け、大きな評価を受けた音楽家である。その後、民族音楽に魅せられ、アフリカ、インド、南米の民族音楽を研究しながら日本の縄文鼓に到達した。

 雄大な自然のなかで行われる縄文鼓の演奏は、YouTubeでも観賞できるため、ぜひ鑑賞をお勧めする。CDも発売されている。

 土取氏の著作『縄文の音』(青土社)には、縄文土器との出会いから、縄文太鼓へ至った詳細な経緯が記されている。「縄文鼓」は現代の和太鼓にもつながる。和太鼓は日本中のお祭り、歌舞伎、能楽とさまざまな場所で今でも演じられている。

 世界の演奏家の間でも、和太鼓演奏家・林英哲氏は迫力とダイナミズムのある演奏で、クラシックの有名楽団も共演するほどに良く知られた存在である。さらに、和太鼓に魅せられて稽古のために来日する外国人も数多くいるようだ。

 世界には、日本語を学ぶ外国人も多くいるが、縄文時代から自然のなかで育まれた縄文の音の代表である和太鼓が世界からさらに評価される時代が到来する可能性を秘めていると思う。その理由は、自然との共生から生まれた音に根源的な生命力があるからだ。

 縄文道の根源である、縄文人の生き抜いてきた生命力とダイナミズムが縄文鼓のなかに秘められているからだ。


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