2024年04月24日( 水 )

五輪開催支持を菅首相獲得できず

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「正当性のない五輪の開催は認められない」と訴えた4月18日付の記事を紹介する。

4月16日、米国ワシントンで日米首脳会談が行われた。
会談後、日米首脳の共同記者会見が開かれた。

懸案の東京五輪について日米共同声明には
「バイデン大統領は、今夏、安心・安全な大会を開催するための菅総理の努力を支持する」
と表現された。

事前報道では、菅首相が東京五輪にバイデン米大統領を招聘する方針が伝えられていた。
バイデン大統領が東京五輪開会式に参加することは、バイデン大統領が東京五輪開催を前提に行動することを意味する。

バイデン大統領は東京五輪について「科学的に判断」することを明言しており、「科学的に」東京五輪開催の正当性が判断されるのかどうかが注目されてきた。
日米共同声明の表現は、バイデン大統領が東京五輪開催を「科学的に」正当化できない現状を明示するものになった。

菅首相は共同記者会見で
「世界の団結の象徴として、大会の開催を実現する決意であることを大統領に伝えた。
大統領からは、この決意に対する支持を改めて表明してもらった」
と表現した。

菅首相が述べてきた
「人類がコロナに勝った証としての東京五輪」
の言葉は消えた。

バイデン大統領は
「東京五輪開催を支持する」
と述べない。

菅首相の「東京五輪を実現するための努力」を支持しているだけ。
その東京五輪開催の環境が日増しに悪化している。
日本におけるワクチン接種も五輪開催までにはほとんど進展しない。
感染そのものは第4波に移行しており、週明けにも「緊急事態宣言」発出が具体的に検討される。

大阪府で感染爆発が観察されているが、感染急増をもたらしているのがN501Y型の変異株。
N501Y型ウイルスが東日本でも感染の中心に置き換わりつつある。
東京都の新規陽性者数は1,000人に到達していないが、今後、感染の中心がN501Y型になれば、1,000人を突破してくると考えられる。

ゴルフの国内トーナメント初戦では韓国から来日した選手が2週間の隔離措置の後、感染が確認された。
「隔離措置」が取られていたにもかかわらず、国内で感染したと考えられる。
五輪を安全・安心に開催することが不可能である1つの重大な証左である。

バイデン大統領と菅首相による共同記者会見でロイター社の記者が、コロナ感染が拡大するなかでの東京五輪開催について、
「公衆衛生の専門家から開催の準備ができていないという指摘がある。
無責任ではないか」
と質問した。

ところが、菅首相はこの質問を無視した。

さらに、日本側の共同通信記者から、五輪について大統領から具体的にどのような支持が得られたのかの質問があったが、菅首相は
「改めてご支持いただいた」
とだけ述べた。

記者会見で記者の質問に対して明確な回答を示せない。
日本国内での記者会見では事前に記者から質問を提出させ、官僚が回答を準備して、首相はその回答を朗読するだけ。
しかし、米国での共同記者会見では「学芸会方式」を活用できない。
その結果、このようなお粗末会見になる。

バイデン大統領は東京五輪について、極めて厳しい判断をしていると考えられる。

菅首相の訪米前に自民党の二階俊博幹事長が
「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」
と発言した背景に、東京五輪に対する米国の極めて厳しい対応があったと考えられる。
五輪中止が具体的に検討され始めたと判断できる。

菅首相は東京五輪開催を
「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」
と強調してきた。

しかし、東京五輪までに人類が新型コロナに打ち勝つことはなくなった。

共同記者会見で菅首相が述べた表現は、
「世界の団結の象徴として、大会の開催を実現する決意」
に変化した。

しかも、
「世界の団結の象徴として大会を開催」
ではなく、
「大会の開催を実現する決意」
である。

「大会開催」のはるか手前にある「決意」を表明しただけ。

バイデン大統領が支持したのも「大会開催」そのものではなく、「大会開催」のはるか手前にある「決意=努力」についてだけだ。

日本はいま、感染第4波の過程にある。
感染第4波は拡大の途上にあり、このピークがいつになるか判明していない。

大阪府ではすでに医療崩壊の状況に移行しつつある。
そのために、「緊急事態宣言」の再発出が具体的に検討されている。
東京を含む他地域でもこれから状況の悪化が想定される。

「緊急事態宣言」発出の最大契機になるのが医療崩壊の危機。
菅内閣はコロナ病床の確保を疎かにしてきた。
政府が取り組むべき最優先事項は国公立病院、国公立大学病院におけるコロナ病床の確保。

民間病院に支援を要請する前に、まずは国公立病院、国公立大学病院でのコロナ病床確保を実現すべきだ。
民間病院の責任を強調して日本医師会に責任を転嫁するのは完全な筋違い。
国公立病院、国公立大学病院に対してさえ指導力を発揮できない菅内閣の指導力不足が最大の問題である。

緊急事態宣言が発出されるような状況のなかで、人為的に密集と密接をつくり出す聖火リレーを強行することも不当。
政府は何よりもコロナ感染収束に全力を上げるべきだ。

五輪開催は最低でも1万5,000人を超える外国人の入国をともなう。
ゴルフトーナメントでごく少数の外国人が入国しただけでコロナ感染が発生している。

コロナ感染は国内における市中感染であると推察される。
変異株による感染拡大のなかで五輪開催を強行すれば、コロナは収束どころか新たな拡散につながる可能性が高い。

バイデン大統領は一切、「東京五輪開催の支持」を表明しなかった。
この環境下でなお、五輪開催に突き進む菅首相の意気込みだけを辛うじて否定しなかっただけに過ぎない。

国内世論も国際世論も東京五輪開催に全面的な否定の方向を示している。
この状況下での五輪開催強行はオリンピズムの根本原則に反する。

日本政府は福島原発事故について、
「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。
状況は、統御されています」
「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の、0.3km2の範囲内で完全にブロックされています」
と述べてきた。

しかし、事実はまったく違う。

メルトダウンした核燃料を冷却するために大量の水が投入され、破壊された原子炉格納容器から漏れ出た放射能汚染水が地中を通過し、その一部が汲み上げられている。

一部はそのまま地下水脈を経由して外洋に流出されている可能性もある。
汲み上げられた汚染水を処理した水が海洋放出されることが具体的に検討されている。

他国の原発の処理水放出と同列に論じるのは完全な誤り。
まったくレベルの異なる海洋放出である。
正当性のない五輪の開催は認められない。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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