2024年04月25日( 木 )

所有のコスト背負わず所有する無敵の「方程式」~星野リゾート(4)

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ライター 黒川 晶

「公」との同期(シンクロ)~「観光立国」とその諸政策

 バブル崩壊の後遺症を脱せぬまま10年が経過した2001年、発足した小泉純一郎政権が「我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野」の1つに観光を挙げ、世界の観光需要を取り込むことで地域活性化や雇用機会の増大を図る政策、いわゆる「観光立国」を打ち出したことは周知の通りである。

 03年に小泉首相の主催で「観光立国懇談会」がスタート。翌04年にはこれを改組した政府の諮問機関「観光立国推進戦略会議」が設立された。2年後の06年12月には「観光立国推進基本法」が成立し、08年に観光庁が設立。かくして国が観光業の振興にテコ入れする枠組みが整えられた。そして、この過程において星野佳路氏は、「観光立国推進戦略会議」の有識者メンバーとして政策策定に参与したことが知られる。

 その後、リーマン・ショック、東日本大震災という2つの危機を経て12年12月に成立した第2次安倍政権のもとで、「観光立国」は改めて国家の成長戦略(「日本再興戦略」)に組み入れられた。同時に、(株)星野リゾートはさまざまな公的プロジェクトに参画するようになったが、そこには常に、同社の利益になるようなことがらが付随している。

 たとえば15年12月にスタートした「星野リゾート旅館・ホテル運営サポート投資事業有限責任組合」である。「(株)日本政策投資銀行」(財務省所管)が同年6月に創設したプロジェクト、「成長協創ファシリティ」の対象案件として組成された、20億円規模の投資ファンドで、同行と星野リゾートとが折半で出資、経営難に陥っているホテルや旅館に改装や耐震改修のための資金を供給する。17年7月末には、三菱東京UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクや地銀も加え、支援対象を施設の拡充や新規建設などにまで拡大した運用総額141億円の第2号ファンドが設立された。そして、これらのファンドの支援先には、星野リゾートによる「運営ノウハウ提供、コンサルティングおよび販売支援等による運営力の強化」という「支援」策が用意された。

 また、星野リゾートは20年3月に山口県長門市の長門湯本温泉に「界 長門」を開業しているが、そこは14年1月に倒産した同温泉街の老舗ホテル「白木屋グランドホテル」の跡地であり、長門市が1億1,361億円で取得し、国からの補助金2億円+地元負担1億2,000万円で更地にした土地である。

同社の説明によれば、長門市からこの跡地を活用してほしいと「非常に熱心に」請われての進出だったとのこと。その際、星野リゾートは、単独の進出では採算面で難しいとして、オファーを受ける条件として温泉街全体の「リノベーション」を提案。かくして長門市に長門湯本温泉街「再生」プロジェクトのマスタープラン策定も合わせて依頼され、16年4月から事業に携わることになったということである。

(つづく)

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