【熊本】城下町の面影残す中心市街地、九州第3位・熊本市の今昔――(2)
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清正公のグランドデザイン
清正公が熊本城の築城と併せて行ったとされるのが、城下町の整備や、治山や治水、干拓による土地開発だ。
まず、水害対策および内堀としての活用のために、白川と坪井川の付け替え(川の流れを人工的に変える改修工事)を行い、「石塘(いしども)」と呼ばれる堤で分流した。また、城の南側には町人・職人町である「古町」を整備するほか、後に西側にも町人・職人町を拡大して「新町」を整備。古町では「一町一寺」制を取り入れ、それぞれの町の中央に寺院を設置し、その周囲を町屋で囲んで城の防護を固めるのに役立てている。
一方で、城の東側の山崎から高田原、坪井にかけての一帯や、城の北側の京町などに武家屋敷を造成していった。これら武家屋敷のうち、城内(二の丸)や内坪井、山崎には上級武士の屋敷が立ち並び、手取や千反畑、高田原には主に下級武士が住んでいたとされる。
また、清正公が熊本城天守閣を建設する際、中心部を流れる白川に資材運搬のために架けた頑丈な橋が「長六橋」である。長六橋は約250年間もの間、白川に架かる唯一の橋として重要な交通拠点となっており、橋の南側に位置する「迎町」はその後、薩摩街道や日向往還、南阿蘇へ向かう南郷往還への起点となって賑わいを見せたとされる。ちょうど五街道の起点となった江戸・日本橋のような役割を担っていたようだ。
こうした城下町の整備と並行して、清正公が力を入れていたのが治水・土木事業だ。氾濫が起きやすい“暴れ川”だった白川を河川改修工事によって制するほか、坪井川を改修して水流と水深を確保して城下町と有明海とを結ぶ水路として物流機能を付与した。また、氾濫が頻発していた加勢川に江津塘(えづども)を築いて、氾濫の発生を抑制することに成功。これにより水が堰き止められて河川の幅が広がり、現在の江津湖となったとされている。
さらに、各地で治水や新田開発のための灌漑を実施。その代表的なものが、現在の熊本県菊陽町の白川取水口から続く、総延長約12.4kmもの農業用灌漑水路「馬場楠井手(ばばぐすいで)の鼻ぐり」の整備で、これにより約95町(約95ha)の田畑を潤して収穫量を約3倍にまで増やしたとされる。しかもこの水路は、今なお現役で使われているというから驚きだ。また、現在の玉名市横島や八代平野(八代市)に広がる広大な干拓地の開発に先鞭をつけたのも清正公だ。
なお、これらの大規模工事の数々には莫大な人手を要し、男女問わずに徴用されたそうだが、そのほとんどが農閑期に進められたうえ、きちんと給金も支払われたため、皆喜んで協力したという。また、清正公は工事担当者に対する注意事項として、「その土地を念入りに調べ、川下の人々の迷惑にならないようにし、川守や年寄りの意見をよく聞くこと」と言ったとされているが、こうした地元住民への配慮も、数々の事業を成功に導いた要因だったようだ。
こうして整備されていった城下町の町割や、河川改修・灌漑水路などのインフラ、農地などは、今なおその面影を色濃く残している。いわば現在の熊本市のグランドデザインを行ったのが、400年前の清正公であったといっても過言ではないだろう。
なお、名君とされた清正公だったが、後を継いだ三男の加藤忠広が改易(大名の領地・身分・家屋敷を幕府が没収し、取り潰すこと)となったことで、加藤家はわずか2代で熊本藩主の座を追われ、その後、断絶となった。加藤家に代わって熊本藩主となったのが細川家で、以降、江戸期を通じて12代・約240年間にわたって統治した。
(つづく)
【坂田 憲治】
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