【熊本】3月、新阿蘇大橋が開通。復興に向けた新たなシンボルが誕生
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3月7日、熊本地震で落橋した阿蘇大橋の架替え工事が完了し、通行止めになっていた国道325号阿蘇大橋ルートの開通式が開かれた。阿蘇大橋の架替えは、南阿蘇地域での震災復興のシンボル的存在だった。今回の開通により、熊本ICから南阿蘇村役場間の所要時間が震災直後の約60分から約33分に短縮されるなど、南阿蘇地域へのアクセスが向上する。新阿蘇大橋の開通により、熊本地震で被災した阿蘇周辺の主なインフラ復旧はほぼ完了。落橋した旧橋が被災のシンボルだとすれば、新橋は復興に向けた新たなシンボルの誕生だといえそうだ。
国が権限代行で架橋
新しい橋の名称は「新阿蘇大橋」。新たに黒川に架けられた橋は、延長は525m(アプローチ部180m、渡河部345m)。車道は2車線で、下流側には歩道も整備された。渡河部についてはPC3径間連続ラーメン箱桁構造だが、推定活断層がある区間については、鋼単純箱桁構造を採用。再び地震が起きた際には、支承部で変位を吸収し、先に破壊させることで、橋全体の崩落を回避する構造としている。
新橋の位置は、崩落法面等の影響を回避するため、旧橋から約600m下流に変更されている。新旧阿蘇大橋は熊本県管理だが、県の要望を受け、国土交通省が権限代行し、災害復旧代行事業として実施された。
新たな観光スポットとしても活用
左岸側には、熊本県が提唱する「創造的復興」の一環として、展望所「ヨ・ミュール」を整備。ヨ・ミュールとは、熊本弁で「よく見える」を意味する。施設、トイレ(南阿蘇村が整備)、駐車場(熊本県が整備)も設置された。橋の管理用通路も遊歩道として一般開放する。休憩所は仮設住宅「みんなの家」を移設したもの。橋梁に展望施設を設置するのは、全国的にも珍しい。
休憩施設には、テナントとしてジェラート専門店が入る。展望スペースには、橋の概要などに関するパネルも設置されている。3月下旬に現地を訪れたところ、平日にもかかわらず、多くの人々で賑わう光景が見られた。なお、崩落した旧橋も、震災の遺構として残すことが決定した。
急速施工で1年4カ月工期短縮
渡河部の工事では、工期短縮のため、24時間施工のもと、インクライン(大量の資機材運搬が可能)、クライミング工法(下部工の足場と型枠を一体施工)、超大型移動作業車(上部工張出ブロック数の減少)なども採用。通常の工期と比べ、約1年4カ月の工期短縮を実現した。いわゆる急速施工だ。渡河部の施工を担当したのは、大成・IHIインフラ・八方地域維持型建設共同企業体(以下、大成JV)。
大成JVの担当者は、「これらの工法を組み合わせることによって、トータルの工事日数を大幅に削減することができた。インクラインについては、当初の技術提案にはなかったが、現場が急峻な谷地形で強風が吹くことから、効果が大きいと考え、導入した」と振り返る。
新橋工事を担当した九州地方整備局熊本復興事務所の大榎謙所長は、渡河部工事について、以前の取材で「厳しい施工条件にもかかわらず、また、万全のコロナ対策を講じたうえで、工程に支障なく工事を進めていただいていることに感謝している」とコメントしていた。
施工業者に感謝を寄せるのは、発注者だけではない。熊本復興事務所に掲示された寄せ書きを見ると、住民などから工事関係者に対する感謝の言葉が並んでいる。キザな言い回しになるが、新阿蘇大橋は、住民と工事関係者との間に架かる「心の橋」ともいえるのかもしれない。
赤羽大臣「技術力と実行力のすばらしさに感嘆」
式典は、あいにくの雨のなか、関係者など57名が出席し、執り行われた。コロナの影響で、出席者は通常の半分以下に抑えた。
席上、挨拶に立った赤羽一嘉・国土交通大臣が「(一昨年9月に現場を訪れた際)阿蘇大橋地区の難工事が、AIを駆使した無人施工の活用などにより着々と進んでいることを確認し、改めて我が国の建設業界の技術力と実行力のすばらしさに心から感嘆した」などと述べた。
地元からは蒲島郁夫・熊本県知事が挨拶に立ち、「(今秋の開通が)南阿蘇地域、県全体の観光や産業の復活再生に大きな効果をもたらすものと確信している。(新たに整備した展望所は)阿蘇の玄関口における新たな観光スポットとして多くの方々に楽しんでいただきたい」などと期待を寄せた。その後、テープカット、通初めが執り行われた。
【フリーランスライター・大石 恭正】
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