大西一史・熊本市長に聞く、ポスト震災まちづくりの進捗（3）

新たな公共交通を模索中

　――まちづくりについてうかがいます。まず渋滞対策ですが、進捗はいかがでしょうか。

　大西　19年6月に熊本都市道路ネットワーク検討会を立ち上げ、国や県とともに現在も検討を続けている状況です。進捗としては、熊本市中心部から高速ICまで10分で行けるように、また空港や熊本港まで20分で行けるようにということで、都市高速などの手法について検討しているところです。ただ、どのような道路ネットワークを構築するかについては、まだ少し時間がかかる見通しで、中長期的な課題になります。そのため、短期的な施策としては、県警と連携しながら、交差点改良を実施しています。桜町でも19年9月に「SAKURAMACHI Kumamoto」がオープンし、バスターミナルもリニューアルしました。

　そして、公共交通の利用促進への取り組みとして、全国初となるバス会社5社による共同経営が21年4月にスタートしました。今回の取り組みが1つの起爆剤となって、わかりやすく利便性の高いバス路線網の構築につながることを期待しています。熊本市としても国や県と連携しながら、全面的にバックアップしていきます。

　また、熊本市では21年4月3日から、「まちなかループバス」の運行を開始しました。土日祝日のみ運航し、停車バス停は、熊本駅前と桜町バスターミナル、通町筋の3カ所だけです。運賃は市電よりも安い150円均一です。熊本の陸の玄関口であり、交通の拠点であるJR熊本駅周辺がこれから賑やかになっていくことを期待しています。
　さらに、中心市街地の核の1つである通町筋周辺、これらのテイストの違う3拠点を「線」でつなぎ、そこから中心市街地全体に「面」的に賑わいを広げていく必要があります。ループバスの利用が定着すれば、新たな人の回遊が生まれるという意味で、プラスに働くと考えています。

135億円投じ路面電車を延伸へ

　――路面電車のテコ入れについてはどうですか。

　大西　私は1期目の選挙時、最初の公約として「路面電車の延伸事業」を掲げていました。現在の終点である健軍町から市民病院まで約1.5km弱延伸する計画です。昨年度実施した調査では、路線を延伸した場合、約135億円の事業費が必要であり、コロナ禍という状況もあることから、予定していた実施設計はいったん中断しているところです。これが実現すれば、交通渋滞もかなり改善されると期待しています。

　熊本市の路面電車の路線は、モータリゼーション化にともなって集約された結果、現在は2系統しかありません。これを逆に広げることで、市民の移動の利便性を向上させたいという思いがあります。バスとの接続もしっかりやれば、相乗効果も期待できます。私自身、県議のころから公共交通施策に携わってきました。ヨーロッパにおいても自動車からトラム（路面電車）に転換するまちづくりが展開されていますし、路面電車は地下鉄と比べ、コストや環境負荷が低く、かつ比較的多くの人を運べる、シンプルで利用しやすい乗り物です。路面電車路線の拡大は、市民にとっても、観光客にとっても非常にプラスになると考えてきました。

　熊本市では、自動車は1人1台の乗り物になっていますが、高齢者の方は、近い将来自動車を運転できなくなるときが来ます。そういう方々の日常の足として、路面電車は非常に有効な交通手段になると考えています。

【フリーランスライター・大石　恭正】

（つづく）

＜プロフィール＞
大西 一史（おおにし・かずふみ）
1967年12月、熊本市生まれ。92年に日本大学文理学部心理学科卒業後、日商岩井メカトロニクス（株）に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任（5期）。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。