2024年03月29日( 金 )

豪雨・台風による停電も太陽光発電で電力確保(後)

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 2019年の台風15号で電力系統の復旧が進まずに千葉県広域で長期間の停電が続いたことから、停電時の地域自立型の電力供給が模索されている。(株)次世代商品開発研究所が開発した電源ポール(ストリートライト)は、ソーラーシートにより電力を使う場所で発電できる。太陽光発電を用いた災害対策の可能性を探った。

豪雨、台風での利用

(株)次世代商品開発研究所代表取締役・奥村正之氏
(株)次世代商品開発研究所
代表取締役・奥村正之氏

 電源ポールは、本体と一体型のソーラーシートで太陽光発電(最大出力80~250W)ができ、支柱の内部にバッテリーユニット(最大容量1,056Wh)を内蔵している。電源ポールは送電線を借りる必要がないため、災害による停電時のインフラ復旧前でも、ポール上部に接続したLED照明によって夜間の街灯(最大40時間)を確保できるほか、充電ステーション、Wi-Fiのアクセスポイントを接続することでスマホなどの充電や通信ができる。

 同社代表取締役・奥村正之氏は「最大で風速60m/秒の暴風雨でも耐えられる設計のため、耐風性も高い」と説明する。

 さらに、河川の氾濫や山間部の土砂災害を想定したモニタリングカメラ、降雨量などの気象情報センサーを電源ポールに接続することで、災害時の早期避難対策に用いることも可能という。

電源ポールの夜間の街灯としての利用
電源ポールの夜間の街灯としての利用

 「昨年7月の豪雨による熊本県球磨川の氾濫では、支流の水量が上がり、球磨川本流に流れ込んだことも大規模な洪水が起こる原因となりました。豪雨時に、上流の河川の水量や雨量の推移をモニタリング機器で測定できれば、氾濫の可能性が高いときに早めに避難勧告を出し、避難場所へ誘導できます。また、地元の人は災害の可能性をある程度認識しており、ハザードマップももっているために避難しやすいのですが、観光地では、土地勘がない旅行客に対して行政が避難経路を指示するときにも活用できると考えています」(奥村氏)。

 将来的には、気象データから河川の下流で洪水になり得る時刻をAIなどで予測することを計画しているという。また、農業のIoT化にも利用が見込まれている。農業の担い手が高齢化するなか、電源ポールに各種センサーを組み合わせることで、農作業のオートメーション化を図り、作業の軽減化が期待できる。

電力利用の低コスト化やメンテナンスの負担軽減も

電源ポールの夜間の街灯としての利用
電源ポールの夜間の街灯としての利用

 太陽光発電については、22年に固定価格買取制度(FIT)から市場価格に割増金を上乗せするFIP制度へ移行することや、政府の自家消費推進により、中小規模発電所では電力を売電せずに自家消費の利用が拡大すると予想されている。工場をリアルタイムで確認できる遠隔監視カメラや、通信回線が遅延しにくい工場のローカル5G中継地点を電源ポールに接続することにより、低コストで太陽光発電の電力利用が可能になると見込んでいるという。

 また、太陽光発電設備のメンテナンスの人手不足が課題となっていることから、巡回が不要になるように、故障時に遠隔無人監視によって通知が届く仕組みをつくることで、メンテナンスの負担軽減も可能となる。

 奥村氏は「電波の広がる距離が狭く、数百mごとに基地局が必要な5Gでは、人口密集地以外での電源の確保、メンテナンスの負担が課題とされており、これらの中継地点としても一体型の太陽光発電が利用できると考えています」と話す。

 都市部で進められている無電柱化は台風などの災害に強いとされているが、地震などで破損した場合の復旧は通常の電線のほうが早いともいわれている。無電柱化を進めるうえでも、電線との接続が不要な電源ポールを街灯などに活用できる可能性もある。

 また、再エネを発電した場所で使う地域分散型独立電源は、送電時の電力ロスが少なく、電線が届いていない公園内でも街灯が利用できて、僻地の道路でも電線の埋設が不要となる。送電線を張りめぐらす場合の維持コストを考えると経済的で、環境への負担も少なく、SDGs(持続可能な開発目標)の実現にもつながる。災害時に電力確保に役立つ太陽光発電などの再エネ活用の広がりが期待されている。

(了)

【石井 ゆかり】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:奥村 正之
所在地:大阪市西成区南津守6-5-53号オーエス大阪ビル
設 立:2006年4月
資本金:1,500万円

(前)

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