2024年04月19日( 金 )

「イーロン・マスク氏が先導役を務めるAIビジネスの未来」(前)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

 世界中がコロナ騒動で揺れ動いているが、コロナ禍を逆手に取るような人体の能力向上研究が進んでいることは間違いない。コロナ騒ぎが収束した暁には、これまでと違った世界が広がる可能性は高いだろう。その最前線を行くのが「ニュービジネス界のドナルド・トランプ」の異名をもつイーロン・マスク氏である。

 確かに、電気自動車の「テスラ」から宇宙ロケットの「スペースX」の開発などを通じて世間をあっと言わせる一方で、サルやブタの脳にチップを埋め込み、ゲームを楽しませるような奇想天外なチャレンジ精神を誇示しては、世間を騒がせている。

 そんなマスク氏がこのところ力を注いでいるのが人間と人工知能(AI)の合体に他ならない。実は、こうした試みはアメリカ政府、とくに国防総省が長年、研究開発に公的資金を投入してきた経緯が隠されているのである。

AI イメージ たとえば、「国家AI安全保障委員会(NSCAI)」ではAI、マシン・トレーニング、その他、国家の安全保障に関する総合的な関連技術の研究開発を主導してきた。議長はGoogleの親会社「アルファベット」の元代表であるエリック・シュミット氏。同氏の主張は「アメリカ政府が今、立ち上がらなければ、シリコンバレーは技術戦争で中国に負ける」というもの。アメリカの連邦議会では民主、共和党を問わず、こうした危機感を共有している。

 確かに、中国は「AI医療診断サービス」や「スマートシティ構想」でアメリカの先を行く動きを加速させている。これまでも中国は「顔認証システム」をジンバブエへ、「スマートシティ構想」をマレーシアに輸出してきた。さらには、インドでのモバイル決済「ペイTM」はすでに中国企業がコントロール下に置いている。

 モディ政権が進める「キャッシュレス・インディア」計画であるが、実質的には中国の関与が不可欠というほど、中国への依存度を高めており、国境線をめぐり中国と武力衝突を繰り返すインドではあるが、水面下では中国との関係維持に腐心しているようだ。

 2018年の「国防権限法(National Defense Authorization Act)」に基き、アメリカでは第4次産業革命がスタートした。そのポイントは「データが新たな石油」との認識である。そうした認識に基き、アメリカ政府は中国のAI戦略に対抗するために「共同AI研究センター (JAIC)」 を設立することになった。

 そうした流れを受け、民間の「AIメディスン」はAIのパワーを活用し開発した薬でコロナウイルス用の治療にも成果を上げている。同様に、「マイクロソフト」では「健康のためのAI計画」を策定し、2,000万ドルをNSCAIから調達。コロナウイルス関連データの分析に一役買っている。また、遠隔診断、治療への応用にも取り組み、その延長線上では追跡アプリの開発にも成功。

 要は、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏が先鞭をつけたわけだが、コロナウイルス対策はもちろん、次なるパンデミックの発生予防にAIを活用しようと狙っていることは明らかだ。見方を変えれば、「テクノ専制国家」の誕生につながることも懸念される。

 実は、ポーカーと戦争には共通点が見出せる。アメリカでは「リブラトゥス」と命名されたポーカーロボットが開発され、世界のトッププレーヤー4人を打ち負かした。2017年のことである。それまでAIはチェスや碁では人間を凌駕してきたが、ポーカーは未知の領域のゲームであった。そこでの勝利で180万ドルの賞金を獲得したカーネギーメロン大学のサンドホルム研究員は「ストラテジー・ロボット」 社を立ち上げた。そして軍事戦略の立案にも加わることになった。

 具体的には、アメリカ陸軍との間で2年間1,000億ドルの契約を締結。同社は2015年に設立された陸軍の「防衛イノベーション部隊」への支援を続けている。なぜなら、ポーカーの特徴は「はったり」と「先の読み難い」戦いであり、これは実際の戦争と共通する領域が多いからである。

 冒頭に紹介したマスク氏の新規ビジネスと関連するのが「人と機械のテレパシー」研究である。国防総省からライス大学の神経工学チームに800万ドルの研究費が支給されている。同省の先端技術開発局(DARPA)では2018年からワイヤレスの頭脳リンクへの応用研究に資金提供を始め、2022年には人体実験が始まる予定である。

 その研究の目玉は「MOANA(Magnetic, Optical and Acoustic Neural Access)光」を使い、1つの脳内神経活動の暗号を解読し、暗号化した後、別の脳内に送るという画期的なもの。しかも、必要な時間は「1秒の20分の1」という超スピードだ。この技術を応用すれば、盲目の場合にも視覚を取り戻せる可能性が高いと期待が高まっている。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(中)

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