2024年03月29日( 金 )

国民の命と健康を五輪と引き換えるな

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「菅内閣が国民の命と健康を危険にさらして巨大商業イベントの五輪に突き進み、日本全体に災厄を広げるのを許すべきでない」と訴えた5月18日付の記事を紹介する。

新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数増加に歯止めがかかる気配が観察されているが、依然として楽観は許されない。

英国由来のN501Y変異株による感染拡大に歯止めがかかることが期待されているが、これとは別にインド由来L452R変異株の日本国内での市中感染が確認されている。
L452R変異株の感染拡大が警戒される。

昨年来のコロナウイルス感染は3カ月から4カ月ごとの感染拡大周期を示している。
感染第4波が縮小しても、感染第5波が到来する可能性を否定できない。
とりわけL452Rが猛威を奮うことが懸念されている。
L452R変異株は日本人の6割が保持すると見られる白血球抗原をすり抜ける性質を有すると指摘されている。

インドではいったん感染が収束したかのように思われたが、その後の行動抑制緩和に連動して感染が急激に再拡大した。
人種的に日本人と近いモンゴルでも感染の急激な拡大が観察されている。
本年7月、8月に向けて、L452R変異株による感染拡大発生が警戒される。

コロナ感染による死者数は1日当たり100人規模で推移している。
年率換算で3万人から4万人に達するもので、「さざ波」と表現するのは誤りだ。
極めて深刻な被害が日本でも広がっている。
政府は政府の最大の役割が国民の命と健康を守ることにある点を忘れるべきでない。

東京五輪開催予定の期日が迫っている。
日本政府は速やかに最終的判断を示すべきだ。

東京五輪を開催する場合、多数の外国人が日本に入国することになる。
選手と直接の関係者だけで1万5,000人規模。
これ以外に、スポンサー関係者、報道関係者が9万人規模で入国する可能性が示されている。
10万人規模の外国人が入国することになる。

海外の出国時点で陰性が確認されても、その人が日本国内に入国して以降に発症することが考えられる。
水際で遮断することは難しい。
10万人規模の外国人が入国して、日本国内の市民との接触を完全に遮断することは不可能だ。

五輪組織委員会ならびに日本政府は入国する外国人に対する監視を行うとしているが、実効性に強い疑いがある。

菅内閣と五輪組織委は日本の国民にいかなる不利益、災厄が降りかかろうとも、五輪開催を強行してしまえとのスタンスを保持していると見られるが、日本の主権者に対する背信行為だ。

10万人規模の外国人の入国を強行すれば、大きな災厄がもたらされる蓋然性は極めて高い。
五輪開催のために日本国民を生命と健康の危険に晒すべきでない。
五輪は取り返せるが、失われた命を取り返すことはできない。

五輪はかつての五輪でなくなっている。
アマチュアリズム、非営利の「平和の祭典」ではなくなっている。

巨大な営利資本が営利のために巨大な広告費を拠出し、IOCを中心とする関係団体が巨大な収入金を獲得する巨大商業イベントになっている。
五輪に参加する選手も、良い成績を得れば、それがそのまま自分自身の所得拡大につながる面が強まっている。
イベント全体が「営利事業」と化している。

スポーツは新しい産業として着目されている。
営利を追求する巨大な営利資本が広告宣伝の機会として五輪を利用している。
五輪を運営する団体も五輪に参加する選手も、営利的な利益につながるイベントして五輪を重要視している。

営利とは関係が薄い競技種目も存在はするが五輪全体は極めて営利色の強いイベントと化している。
この現実を踏まえれば、五輪を神聖視することは実態にそぐわない。

サッカーのワールドカップにしても、陸上の世界選手権、フィギュアスケートの世界選手権も、すべて商業イベントして興行されている。
五輪も同列に扱うべきだ。

国家が介在し、税金を投入する事業としての適格性を欠いている。
その五輪が人類の大きな危機である感染症パンデミックに直面するなら、その開催を断念することは驚くべきことではない。
五輪を中止するとともに、商業イベントと化した五輪を廃止することを検討するべきだ。

コロナ情勢に東アジアで変化が生じている点に留意が必要だ。

モンゴルは本年に入るまで、コロナ被害の極めて小さい国だった。
ところが、そのモンゴルでコロナの感染が急拡大している。
また、コロナ感染収束の最優良地域であった台湾でも感染急拡大が伝えられている。

台湾の政策対応は迅速かつ徹底しており、台湾は今回も感染収束を実現してゆく可能性が高いが、台湾でも感染拡大が観察されている点を見落とせない。
早速、台湾は海外からの外国人入境禁止措置を実施した。

昨年1月23日に中国政府が武漢市を封鎖した。
その翌日、台湾政府は武漢市から台湾への入境禁止措置を取った。

日本の安倍首相は同じ日、在中国日本大使館HPから、中国国民に対して、春節の休暇を利用して日本を訪問することを呼びかけた。
日本政府の対応と台湾政府の対応の落差に驚かざるを得ない。
今回のインド変異株に対する対応でも台湾政府と日本政府の落差は極めて大きい。

台湾やモンゴルで感染拡大をもたらしているウイルスの種類が注目されるが、L452Rインド変異株である疑いがある。

東アジアのコロナ被害は極めて軽微だった。
その要因が「ファクターX」と表現されてきたが、L452R変異株がファクターXを無効化することが警戒されている。

欧米諸国のなかでワクチン接種が進展している国で新規感染者数が減少している。
このことによって先行き楽観論が広がっているが、まだまだ油断することは許されない。

ウイルスの変異スピードが極めて速いなかで、ワクチンが今後登場する変異株に有効であり続けるかが定かでない。
また、ワクチンがもたらす弊害が不明である。
新種のワクチンであり、長期的な影響が警戒される。

メディアは「ワクチン万能論」を流布しているが、ワクチン接種後に急死する事例も多数報告されている。
こうしたネガティブ情報が隠蔽されて、ワクチン接種を煽る情報だけが流布されることが問題だ。

将来、重大な副作用が判明したときに、ワクチン接種を扇動した行動に対して重い裁きが下されるだろう。

「賢明な人はワクチン接種を受けない」
と記述したが、その通りだと思う。

日本政府が取るべき対応は次の3つ。

第1は、感染拡大を抑止する行動規範を定着させること。
第2は、コロナ感染拡大にともなう経済悪化がもたらす人々の生活苦、生活不安を取り除くこと。
第3は、感染によって命と健康のリスクに晒される国民に対して必要十分なケアを行うこと。

この3つに絞って全力を挙げるべきだ。
しかし、菅内閣は、この3つのいずれに対しても適正な取り組みを示していない。
直ちに是正することが必要だ。

感染拡大を抑止するには人流を抑制し、マスクなしでの多人数での会話を抑止する必要がある。
家庭外での食事については、「黙食」「個食」を全面的に推奨すべきだ。

人流拡大は多人数での会話をともなう会食機会の増加をもたらす。
このために、GoTo事業などは抑制されなければならない。

経済活動低下にともない、多くの人が生活苦、生活不安に直面している。
これを財政支出によってカバーすべきだ。

コロナ感染により、多数の人命が奪われている。
感染が判明し、病院での治療が必要であるのに、病院に入院することができず、自宅で死亡するケースが多発している。

日本の保険医療制度崩壊が現実化している。
政府は国公立病院、国公立大学病院に対する指導力を発揮して、国公立病院、国公立大学病院による病床確保に責任をもつべきだ。
民間病院に責任を転嫁する前に、政府が国公立病院、国公立大学病院の病床を確保していないことが問題だ。

菅内閣が国民の命と健康を危険に晒して巨大商業イベントである五輪に突き進み、日本全体に災厄を広げることを日本の主権者は許すべきでない。


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