2024年04月23日( 火 )

【ラスト50kmの攻防(22)】未着工の「新鳥栖―武雄温泉間」ルートは佐賀駅経由が適当 与党検討委

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 与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の九州新幹線西九州ルート検討委が5月26日、未着工の西九州ルート新鳥栖―武雄温泉間についてフル規格整備を前提に「検討の方向性」を協議、初めてルートに言及し佐賀駅経由が適当とした。

 同検討委は、与党PTの小委員会的な位置付け。この日は、与党PTが求めた「並行在来線」「建設費の地方負担」「ルート」「地域振興」の4項目の方向性を検討した。

 並行在来線は、JR九州が在来特急から新幹線への旅客移動を推計して“認定”する。与党検討委は、新鳥栖―武雄温泉間の開業後も鉄道の維持が適当としてJR九州の関与を基本とする方向で検討する。長崎線・鳥栖―肥前山口間と佐世保線・肥前山口―武雄温泉間が対象になるとみられる。

 建設費の地方負担では、佐賀県の負担軽減を図るため、既存新幹線を経営する関係JR各社から徴収中の新幹線施設貸付料(JR財源)を検討する。新幹線の建設費は、JR財源と公共事業費(国と地域の負担割合2対1)で賄う。検討委はJR財源を増やして佐賀県負担を軽くする方法を探る一方で、JRの貸付料支払い期間を現行30年間から50年に延長。JRの単年度負担を軽くするという。

 ルートは、着工の前提になる環境アセスメントの実施に不可欠。しかし新鳥栖―武雄温泉間は国交省やJR九州が推す佐賀駅経由のほか、長崎道と並行、佐賀空港経由の計3ルートが浮かび、アセスの実施条件が整っていない。今回、検討委は「佐賀駅を通るルートが適当」と指摘したものの、「佐賀県の具体的な提案、要望があれば別途協議する」と余地も残した。長崎道と並行、佐賀空港経由の2ルートも、国交省が概算の建設費を試算する。地域振興では、新幹線開業効果を最大限発揮するため、佐賀駅周辺の開発やほかのインフラ整備を検討する。

 「検討の方向性」に佐賀県の山口祥義知事は、「国交省が与党PTの考えに縛られない幅広い協議を呼び掛けてきたのでそれに向き合っている。整備方式もルートも限定していないのに、与党PTから勝手に言われてすごい違和感がある」と不快感を露わにした。

 国交省と佐賀県は5月31日、リモート会議で昨年10月23日以来4回目の「幅広い協議」を開く。国交省は「前回までの協議に続き疑問点などを詰める。与党検討委の方向性や8月末の来年度予算概算要求とは別物」と話している。

【南里 秀之】

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