拡大・成長・継続を目論むコロナ禍における福岡飲食の現状(前)
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観光立国を目指す日本にとって、アフターコロナを見据えた戦略が重要となることは自明だ。とくに、外国人観光客が日本に求めるものの1つである「飲食」業をどのように捉え、これから維持・強化していくかは、コロナ禍が大きな転換点となる可能性がある。
日本が安くなって久しい。アジア圏から外国人観光客が押し寄せた理由の多くは、「日本が安い」からだ。「安い」ことを嘆くのではなく、生かすためにも、重要な観光コンテンツである日本の飲食店はどうしていくべきか――緊急事態宣言では「飲食店」、なかでも「酒類を提供する飲食店」は真っ先に休業要請の対象となった。パンデミック初期の昨年4月の緊急事態宣言では、ある意味仕方がないことも多かったと思う。ただ、コロナ禍も1年を超えた現在、医療体制の整備が進まないなかでの緊急事態宣言の乱発による休業要請には、飲食関係者に限らず、閉口する方も少なくないだろう。外食すること自体が悪のような風潮にあり、風評被害を恐れる飲食以外の経営者たちも「1年以上、飲みには行っていない」と口をそろえる。
支援金や協力金など、休業要請の対象となったことで救われた店舗が多いのも事実だろう。ただ、それはあくまでも小規模店舗に限られ、多くの店舗は厳しい状況に追い込まれている。それでも、テイクアウトやデリバリーなど、コロナ禍を代表する新しい取り組みで経営の継続を図ってきたところもある。ほんの一例だが、それらの店舗の取り組みを紹介するとともに、ビルオーナー側の視点からも、3度目の緊急事態宣言下にある福岡の状況を見てみよう。
鮮魚ビジネスの多角化
新鮮な魚介を目の前で焼く浜焼きがウリの「磯丸水産」は、若い世代や外国人観光客を中心に人気を博してきた。福岡市を中心に5店舗をFC運営するKOGAホールディングス(株)が、政府の緊急事態宣言で昨年4月8日より休業に追い込まれたのは、5店舗目の大名店がオープン(2020年2月)してからわずか2カ月足らずのことだった。
5月5日の営業再開からまもなく、各店舗でテイクアウトやデリバリーなど新たな取り組みを行ったが、20年の5店舗の売上は前年比の30%にまで落ち込み、前期(20年9月期)は最終赤字に陥った。一方、今期(21年9月期)は2つの要因から黒字転換を見込んでいるといい、1つは、1948年の創業時からの柱である鮮魚小売事業が安定収益にあること。福岡県を中心に17店舗のスーパーマーケットに鮮魚テナントを出店しており、鮮魚小売事業はコロナ禍においても前年比100%を維持しているという。
もう1つは、19年にグループ会社の(株)弥栄が開始した新規事業だ。埼玉川越総合地方卸売市場敷地内の大型小売店「生鮮漁港川越」の鮮魚部門に併設したバーベキュー施設「川越市場ばべきゅーる」である。20年8月には同店の野菜部門も担い、大きな収益源となった。
また今年7月には、宿泊施設コンサルや集客支援を行う(株)Booking Resort(大阪市北区/にしがきグループ)と提携し、新たにグランピング事業をスタートさせる予定だ。福岡県福津市津屋崎の玄界灘に面した敷地で、「海」をウリにした同社のさらなるブランディングにつなげる。
「コロナ禍の外食産業は非常に厳しく、とくに当店(磯丸水産)のようなチェーン店は、常にブラッシュアップが必要です。中洲川端店では「握り寿司」のテイクアウトを始めました。柱となる事業を複数もつことで、リスクを抑えることができました。多角化の相乗効果を長期的戦略としていきます」(代表取締役・古賀善敏氏)。
コロナ禍だからこそ新しい挑戦を
糸島の明太子メーカー・(株)やますえは、福岡屈指の百貨店「大丸福岡天神店」東館地下2階に食材店「Freaks & Co. ITOSHIMA」をオープンした。同店では、自社商品の販売にとどまらず、糸島の生産農家が育てた野菜や、糸島在住のアーティストの手による創作品の販売も実施。毎朝畑から直送される新鮮な糸島野菜をはじめ、糸島生まれのお洒落なクラフト作品などが福岡都心部で手に入る利便性の高さもあり、老若男女問わず、連日多くの人が足を運んでいる。
馬場孝志代表は、「コロナ禍だからこそ、新しいことに挑戦する必要があると考えていました。また、さまざまな土地から糸島にやって来られた生産者の皆さんと交流する機会を設け、お話を聞くなかで、自分に何かできることはないかと模索している状況でもありました。出店に際しては、販売員の皆さんに直接糸島の生産者のもとへ出向いていただき、特徴などを学んでいただきました。週末には私自身も店頭に立っています」と、コロナ禍での出店を決断した背景や、店づくりへのこだわりを話す。
やますえが目指しているのは、豊かな自然のなかで育まれた糸島の幸を、生産者の思いやそのこだわりとともに、広く市内外に届ける“糸島の食の総合商社”だ。東京や大阪などの大都市圏でも知られる糸島ブランドだが、「農畜産物や生鮮食品の特徴、生産者がどのような創意工夫を凝らし、どのような思いをもって日々作業に取り組んでいるのかという背景(ドラマ)の部分を届けたい」と馬場代表は話した。
(つづく)
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