2024年04月19日( 金 )

拡大・成長・継続を目論むコロナ禍における福岡飲食の現状(中)

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中食需要で新規出店を継続

唐揚げテイクアウト専門店「博多とよ唐亭」 唐揚げのテイクアウト専門店「博多とよ唐亭」を展開する(株)喰道楽は、まず「テイクアウト専門」という店舗形態が功を奏した。お客が店舗に足を運ぶ抵抗感や忌避感がかなり少なかったのに加え、巣ごもりでの中食需要にうまく合致したことで、1回目の緊急事態宣言期間中は、むしろ例年よりも販売が好調に推移したという。

 ただし、同店においてもコロナ禍の悪影響がまったくなかったといえば、そうでもない。たとえばオフィス街に構えた店舗では、リモートワーク化などによって周辺企業の出社人員が減った結果、ランチタイムの売上は昨年比で減少を余儀なくされたところもある。また、コロナ前に計画していた海外出店も、完全にストップしてしまった。

 しかし一方で、住宅街の至近地やショッピングモールの一角に構えた店舗などでは、例年よりも売上が伸びたところも多い。「全店を平均すると昨年対比でほぼ横ばいですが、新店を出している分、全体の売上は上がっています」(豊永憲司社長)と、2020年もコロナ禍に負けずに7店舗を出店したことも寄与して、全体としては上り調子を継続中のようだ。

代表取締役 豊永 憲司 氏
代表取締役 豊永 憲司 氏

 大手参入や新規事業者による“唐揚げ店の乱立”により、業界内は群雄割拠による競争激化の様相を呈している。同店においては、独自の綿密なエリアマーケティングによる出店攻勢を継続。現在、福岡市内および都市圏を中心に、佐賀県、熊本県などに45店舗(21年5月17日現在)を展開しているが、今後まずは50店舗を節目として目指しながら、同時に店のブランド力や知名度の向上に努め、新たなファンの獲得につなげていきたい考えだ。

 「コロナ禍や競争激化だからといって、変にメニュー数を増やしたり、“背伸び”をしたりすることはしません。今後もこれまで通り『食卓に小さなHAPPYを!』という当社の理念に基づきながら、1人でも多くのお客さまにおいしい唐揚げを届けるべく、日々努めていきたいと思います」(豊永社長)と話す。

 昨年前半はコロナ禍により、テナント流通は低迷しましたが、後半からは小規模店舗の居抜き需要が活発になってきました。大型店舗も閉めるところは多かったのですが、小規模店舗では新規開業する店舗も少なくはなかったということです。ナショナルチェーンの業態変更による縮小移転も増えていった印象ですね。

 このように、居抜き物件が多く市場に出てきたことから、スケルトンは割高感があり、決まりにくい状況が出ています。地場で小規模店舗を複数展開していたところは、補助金もあり、大きな変化はないように感じますが、ナショナルチェーンからの問い合わせは、東京などで緊急事態宣言が発令されて以降、急減しています。

地場テナント仲介・オフィスネットワークの野本常務

奥座敷・西中洲の現状

連ラウンド

 20年3月に福岡市・西中洲の飲食ビルを取得した(株)トリビュートの田中稔眞社長は、「コロナのはしりに取得を決断しました。飲食が厳しくなることは予想していましたが、西中洲というエリアに魅力を感じてのことです」と話す。取得したのは、「連スクエア/連ラウンド」で、敷地面積は277坪、建物面積はスクエアとラウンドそれぞれ290坪、302坪というエリアでは比較的大規模な物件だ。

連ラウンド
連ラウンド

 コロナ禍を理由とした退去は2件あったが、稼働中の床面積あたりの収益はほとんど変わっていないという。一時的な賃料減額要請に応じたケースもあったが、現在はコロナ前の水準まで戻っているようだ。3度目の緊急事態宣言が発令される前には、入居も進んだほか、空室への問い合わせも増加傾向にあったという。

 那珂川と薬院新川、国体道路に囲まれた「西中洲」は、九州一の繁華街・天神と九州一の歓楽街・中洲に挟まれた三角地帯で、面積はわずか1.7万坪程度の希少なエリアだ。天神ビッグバンでは奥座敷として位置づけられており、景観づくりが進められているほか、博多と天神の中間地点ということもあり、両エリアの回遊性向上にも期待されている。

 「西中洲という希少なエリアのブランド価値が、落ち込むことはないと思います」と続ける田中社長。都心の歓楽街は全国的に厳しい状況となっているが、「歓楽街がなくなることはない。必ず復活するはずです。西中洲エリア、とくに天神中央公園の南側は通路の狭さが弱点でもありましたが、趣の良さという強みもありました。コロナ禍では、それがさらに目立っているように感じます。小さな店舗も多く、密になりにくい。石畳の落ち着いた路地は非日常も味わえます」(田中社長)と話してくれた。

(つづく)

【I・Bまちづくり編集班】

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