2024年04月19日( 金 )

ユニクロの米国輸出差し止め問題~米中の覇権争いに巻き込まれる企業(前)

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 米中両大国の覇権争いの渦中に第3国の企業が否応なく巻き込まれるようになった。米国当局は先月、ユニクロの男性用シャツについて中国・新疆で強制労働によって製造された疑いがあるとして、1月に輸入を差し止めていた。
 米国は2019年から中国の一部IT、AI企業に対して「新疆の人権侵害に加担している」として規制を加え、自国の政府機関・企業に対しても製品の使用と取引を控えることを求めてきたが、それが米国と取引をする海外の企業にまで広がったということだ。
 欧州においても中国の体制および人権状況に対する厳しい見方が広まっており、企業にとっては、従来以上に製品および原材料の調達先に注意を払う必要性が生じている。実際、新疆産の綿の使用中止を表明する企業が出てきた。他方で、ユニクロなどは中国市場で大きな売上を上げており、難しい対応を迫られている。

新疆の綿花畑
新疆の綿花畑

 米国関税・国境取締局は先月、ユニクロの男性用シャツについて中国・西北部の新疆ウイグル自治区において強制労働によって製造されたとの疑いに基づき、1月に米国への輸入を差し止めていたことを発表した(5月10日付)。ファーストリテイリングはこれに関して、製品に使用している綿は新疆産でないと主張し、差し止めの解除を求めたが、米国当局側は「強制労働によって製造されたものではないという証拠が不十分」と応じていない。ファストリは25日には「当社製品の生産過程において強制労働が確認された事実はありません」「本件で輸入差し止めの対象となったのは、中国以外で生産された綿を中国の工場で縫製した一部の綿製シャツ製品」とのコメントを発表した。

 なぜ、日本企業が新疆産の綿を使用したとして問題となるのか。米国当局は新疆において綿が違法な強制労働により生産されており、人権侵害であるとの懸念を示す。ここでは、まず中国の新疆政策とそれに関わる中国企業の状況について触れ、次に米国が人権上の観点から懸念を抱き、対中関係の争点と浮上したことを説明したうえで、ユニクロなどの置かれた状況について述べることにしたい。

新疆の治安悪化 背景に漢族と少数民族との格差拡大

 新疆はもともと、ウイグル族などイスラム教を信奉する少数民族が多く住む地域であったが、中華人民共和国の成立以降、各地の共産党書記(事実上のトップ)のポストは漢族が占め続け、漢族の入植が進み、主な経済活動も漢族によって行われるようになった。これらにともない、政治・経済面における漢族とウイグル族など元からの住民との格差が拡大し、この格差を背景としたウイグル族の不満が爆発したのが2009年に新疆自治区の首府であるウルムチ市で発生したデモであった。これは多数の死傷者を出す騒乱に発展した。

 中国ではその前年の08年にチベット自治区の首府ラサ市でも「暴動」が発生していた。中国はこれらの事件を受け、治安維持をより重視し、巨額の予算を投じるようになる。ウルムチをはじめ新疆各地において街頭の監視カメラの設置を加速させる。11年以降、中国では国内の治安維持費(裁判所など司法関連も含む)の予算が国防費の予算を上回るようになった。中国は天網プロジェクトと呼ばれる全土での監視カメラによるネットワーク化を進め、19年時点で設置台数は2億台を突破していた。中国警察当局は監視カメラの設置について「防犯、犯行の撮影のため」としているが、とくにウルムチでは突出している。

監視カメラメーカーが成長

新疆の街頭の監視カメラ
新疆の街頭の監視カメラ

 この監視カメラを製造する代表的なメーカーとして挙げられるのが、ハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)とダーファ・テクノロジー(浙江大華技術)だ。両社はネットワークに接続した監視カメラの世界市場においてそれぞれ1位、2位に成長し、シェアは合計で4割以上を占める。米国の軍事施設においてさえも使われていたほどであった。偶然であろうが、両社とも奇しくも習近平国家主席がトップの共産党書記を02年から07年まで務めていた浙江省(杭州市)の企業だ。

 両社の製品は日本でも身近なところで存在する。昨年からの新型コロナウイルス感染拡大にともない、日本国内でも接触せずに検温できるサーマルカメラが多くの場所で導入されているが、両社とくにハイクビジョンの製品が少なくない。日本メーカーの商品であっても、実際には多くがハイクビジョンのOEM製品というのが実情だ。

 両社の監視カメラやサーマルカメラでこれほどに競争力をもっているのには、先述した中国の治安対策が関係しており、両社は研究開発において政府の支援を受けてきたとされる。

(つづく)

【茅野 雅弘】

(後)

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