2024年04月20日( 土 )

工業都市からスーパーシティへ、九州2位・北九州市の栄枯盛衰(2)

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小倉城
小倉城

工業都市として発展するも、戦時中は米軍の標的に

 明治期に入ると、1871(明治4)年7月の廃藩置県によって小倉藩が「豊津県」となった。その後、同年11月には第1次府県統合によって豊前国一帯が「小倉県」となり、76年2月の第2次府県統合によって福岡県に編入された。89年4月には町村制が施行され、北九州市の旧五市の前身となる小倉町、若松村(91年2月に若松町)、八幡村(99年2月に八幡町)、戸畑村(99年6月に戸畑町)、文字ヶ関村(94年7月に門司町)が誕生。99年4月には市制施行により門司市が、翌1900年4月には小倉市が誕生した。

 なお明治期以降の北九州エリア一帯は、九州の最北端であり、関門海峡の南岸に位置する陸・海の交通の要衝という立地から、軍略上および九州北部の経済発展上の要として重視され、近代的な開発が進んでいくことになる。1871年4月には西海道鎮台の本営が小倉に置かれ(同年10月に廃止され、替わりに鎮西鎮台が熊本に設置)、その後75年4月に大日本帝国陸軍歩兵第14連隊が小倉に設置。小倉はそれまでの城下町・町人街に連なる商業のまちとしてだけでなく、軍都の性格を帯びていく。

 本州との玄関口にあたる門司では、鉄道と港とを直結させようという機運が高まり、88年に九州最初の鉄道会社として「九州鉄道会社」が誕生。89年12月の博多~千歳川仮停車場間の開業を経て、91年4月には門司駅(現・門司港駅)まで鉄道路線がつながった。また、89年3月には「門司築港(株)」が誕生して門司港の埋め立て工事に着手し、門司は港湾都市の様相を帯びていく。

 若松でも、91年8月に筑豊興業鉄道によって、若松駅~直方駅間の鉄道路線が開業。筑豊炭田で産出された石炭が若松駅まで運ばれ、若松港で船に積み替えられて日本全国に輸送されるようになり、石炭の積出のために多くの船舶や港湾労働者が集まり、若松も港湾都市としての発展を遂げていった。また、洞海湾を挟んで対岸に位置する戸畑でも、石炭関連のコークス工場などが集積。洞海湾に面した北側エリアで埋め立てが行われ、工業化が進んでいった。

長崎街道の起点「常盤橋」
長崎街道の起点「常盤橋」

 そして1901年2月に東田第一高炉の火入れが行われ、日本初の近代製鉄所である官営八幡製鐵所が操業を開始した。04年2月には日露戦争の勃発で鉄の需要が急激に増えたほか、終戦後の民間からの鉄需要の増加もあって、八幡製鐵所は数度にわたって拡張。八幡は「鉄の町」と呼ばれるなど工業都市として飛躍的に発展していき、17年3月に八幡市となった。また、筑豊炭田や宇部炭田で産出される石炭と、中国大陸からの鉄鉱石など原料の輸入に適した港湾の存在を背景に、八幡製鐵所を中心とした「北九州工業地帯」として北九州エリア一帯が発展。14年4月には若松市が、24年9月には戸畑市がそれぞれ市となった。

 その後も日本国内の鉄鋼需要を賄う工業都市として発展していく傍ら、小倉陸軍造兵廠の設置や関門海峡周辺での下関要塞が設置されるなど、北九州エリア一帯は軍事基地および軍需工場群としての様相を帯びていく。そのことで、第二次世界大戦末期には数度にわたって北九州のまちは米軍による空襲の標的となった。最も被害の大きかった八幡市では、主力工場であった八幡製鐵所と連鎖する周辺の市街地に対して、軍事物資の生産機能を壊滅させる目的で爆弾が集中。約304万8,000m2が罹災し、1,996名もの死者が出た。次に被害が大きかったのは門司市で、軍事物資や兵員の輸送などを担う港湾機能のマヒに加え、海上交通の要衝である関門海峡の封鎖を目的とした空襲で、約115万4,000m2が罹災し、110名の死者が出た。ただ、被害の多寡はあるにせよ、五市はいずれも北九州工業地帯を構成し、日本の重工業の中核として重要な役割をはたしていたことから、戦禍を免れることはできなかったようだ。

 なお有名な話だが、長崎に投下された原爆の最初の投下目標は、陸軍造兵廠や工場が建ち並ぶ小倉市だったとされている。だが、当日の小倉は、奇しくも前日に八幡市を襲った大空襲による残煙などのために視界が悪く、やむなく第2目標とされていた長崎に原爆が投下されたという。仮に小倉のまちに原爆が投下されていたとしたら、今日の北九州市の様相は一変していたことだろう。

(つづく)

【坂田 憲治】

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