2024年04月19日( 金 )

【都議選2021】“小池たぬき寝入り劇場”が大成功

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

小池知事の名演技で、当初比3倍以上の議席を獲得

 “小池静養(たぬき寝入り)劇場”はクライマックスで大盛り上がり、拍手喝采と共に幕は閉じて、興業は大成功に終わった―これが「勝者なき選挙戦」とメデイアが報じた都議選の第一印象だ。「やっている感」演出に長けた小池百合子・東京都知事のパフォーマンスを見飽きた筆者には大根役者の猿芝居にしか見えなかったが、多くの都民の反応は違った。酸素ボンベを脇に都民ファ候補を激励した“病み上がりヒロイン”に同情、自民党に肉薄する猛追に貢献したのだ。

 小池旋風で4年前に第一党に躍り出た「都民ファーストの会」(都民ファ)は今回、45議席から1桁台へと落ち込む惨敗予測が出ていたが、アカデミー賞の主演女優賞級の小池知事の名演技で雰囲気は一変、当初に比べて3倍以上の31議席も獲得したのだ。

「倒れても本望」という名セリフを発した退院後会見
「倒れても本望」という名セリフを発した退院後会見

 最大の敗者は自民党。公明党(23議席)と合わせて過半数(64議席)獲得が確実視されていたにもかかわらず、蓋を開けてみると35議席と低迷。歴史的惨敗を喫した2017年に次ぐ過去2番目の議席数に止まったのだ。

 小池知事の高笑いが聞こえてくる。過労入院で6月22日から9日間も“たぬき寝入り”をしている間に、同情を買って都民ファ支持率は11%から17%へと上昇。告示日には、雲隠れした病院から激励コメントを直系候補に発信する都議選対策に精を出し、退院直後の7月2日にはふらつく足取りで会見に臨んで「倒れても本望」とお涙頂戴の名セリフを口にした。

東京都医師会の五輪意見書を放置~怠慢を問題にする大メデイアは皆無

平慶翔候補の応援
平慶翔候補の応援

 翌3日の都議選最終日にも、荒木ちはる・都民ファ代表が「命がけの応援」「車には酸素ボンベ」と発信する中、当落線上にあった10人以上の候補者事を回っていった。その一挙手一投足をメディアが“実況中継”、最終盤の奇跡的猛追を引き起こすアシスト役を買って出ていたのだ。「メディア・コントロールの天才」でもある小池知事は今回も、政治ショーを無批判に垂れ流してくれるメディアを味方につけていたのだ。

 7月3日午後4時半。広報宣伝機関として小池知事をアシストした報道関係者は、都民ファの最重要選挙区の1つである千代田区の平慶翔事務所でも待ち構えていた。

 そしてグリーンの勝負服姿の小池知事がガラス張りの車に乗って登場すると、支援者から拍手と歓声が沸き上がる当時に、報道関係者を含めた黒山の人だかりが車を取り囲んだ。すぐに平候補が小池知事に駆け寄り、脇を支えられながら事務所前にまで移動。平候補が最後の訴えを始めると、隣で拍手を送った。マイクを握った応援演説の代わりに仕草で支援の気持ちを可視化したのだ。手短な街宣後は、支援者と記念撮影やグータッチ。ここでの滞在時間は5分程度だったが、“病み上がりヒロイン”に感情移入しそうな場面がワイドショーやSNSで拡散する舞台設定となっていたのだ。

都民ファ幹事長の増子候補応援
都民ファ幹事長の増子候補応援
推薦をもらった都医師会の尾崎治夫会長が説明した五輪意見書は無視という支離滅裂
推薦をもらった都医師会の尾崎治夫会長が説明した
五輪意見書は無視という支離滅裂

 しかし、そこからは不都合な真実が抜け落ちていた。都民の命を守る職責を放棄して病院に雲隠れをする一方、東京都医師会の五輪意見書(感染拡大や通常医療逼迫時に無観客や中止を求める内容)を放置してきた小池知事の怠慢を問題にする大メデイアは皆無だったのだ。

 そこで、増子ひろき・都民ファ幹事長が自民党元職と戦っていた文京区で、小池知事を直撃した。事務所前での増子候補や支援者との記念撮影を終えて歩き出した瞬間、「五輪中止は言わないのか。感染爆発でも開くのか。都医師会の(五輪)意見書は無視か。都民の命、二の次か」と声掛け質問をしたのだ。

 しかし小池知事は無言のまま、ガラス張りの車に乗り込んだ。

小池劇場の「たぬき寝入り」で同情票掘り起こしに全力投球

 職務怠慢とはこのことだ。小池知事の静養中に都内の感染状況はリバウンドで感染爆発(ステージ4)レベルとなったが、開催強行の菅政権(首相)のブレーキ役をしようとしなかった。都民の命を守る職責を全うするのであれば小池知事は、都医師会の尾崎治夫会長と官邸に乗り込み、中止基準作りを求める意見書を突き付けていないとおかしい。入院中でも平都議に激励のコメントを送ったのと同じように、代行役の副知事に対して「都医師会の五輪意見書を官邸に申し入れるように」と指示することができたはずだ。肝心な職務遂行をせずに“過労入院”した挙句、「倒れても本望」と言いながら同情票掘り起こしに全力投球したというのが“小池静養(たぬき寝入り)劇場”の実態ではないか。

 「メデイア・コントロールの天才」「世論操作の魔術師」と呼ぶのがぴったりの小池知事を巨人化させているのは、報道機関から広報宣伝機関へと堕落した大メディアであることを忘れてはならない。自由自在に大メディアを操る“怪物”のような小池知事が国政転身すれば、永田町でも存在感を見せつける可能性は十分にあるだろう。都議選で自民党やメディアを手玉に取った小池知事から目が離せない。

【ジャーナリスト/横田 一】

関連記事