2024年04月18日( 木 )

仲盛氏が大分県を提訴、県内高層マンションの調査求める(前)

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 大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」の区分所有者である構造設計一級建築士・仲盛昭二氏は今月2 日、大分県を相手取り、同マンションの耐震強度不足や法令違反の是正を求める訴えを起こした。

 訴状によると、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)である「ラ・ポート別府」は、以下の点で法令規準に反しているという。

・非埋め込み形柱脚に必要とされる鉄量(鉄筋量)が規定より60%も不足。
・非埋め込み形柱脚だが、保有水平耐力計算における1階の構造特性係数(Ds)が、鉄筋コンクリート造(RC造)の係数でなく、不正に低減された鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の係数が採用されている。
・耐震壁方向に鉄骨が存在しない構造形式だが、保有水平耐力計算におけるDsが、RC造の係数でなく、不正に低減されたSRC造の係数が採用されている。

地震被害を想定したCG
地震被害を想定したCG

 訴訟の経緯や大分県に求める点などについて、原告の仲盛昭二氏に話を聞いた。

 ――「ラ・ポート別府」の不適切な設計について、仲盛さんが大分県に対して再三にわたり質問していたことはNet IB Newsで報じてきました。仲盛さんの質問に対して大分県は、「建築確認済証が交付されている」という同じ回答を繰り返してきたと聞いています。今回提訴に至った理由は何でしょうか。

 仲盛昭二氏(以下、仲盛) 私は大分県に対し、「『ラ・ポート別府』の構造上の適法性・安全性について検討を行い、区分所有者を安心させてください」、「『ラ・ポート別府』と同じように建築確認の際の審査が不十分なSRC造の建物が県内に数多くあるはずなので、調査して県民を安心させてください」とお願いしてきました。これに対し大分県は、「保存年限を過ぎたので設計図書がない。建築確認済証が交付されている」という回答の繰り返しであり、とうとう6回目の質問に対する回答はなく、完全に無視されました。

 大分県は「設計図書がない」と言っていますが、マンションの管理組合が設計図書を保管しているので検討は可能です。大分県内のSRC造の建物の調査も、県民の安全を考えれば実施できるはずです。これらの調査を実施しようとしないばかりか、質問を無視するという不誠実な行為は大分県民に対する冒涜です。私は、大分県民のためにも司法の場において争う以外に方法はないと思い、提訴に至りました。

 6回目の質問を大分県が無視したのは、私の主張を認めたことになります。もし、大分県が裁判のなかで「建築確認は適切だった」と主張するのであれば、法的根拠と工学的根拠に基づいた安全証明の提出を求めます。大分県が安全証明を提出できなければ、「安全ではない」と自ら認めたことになります。

訴状(原告=仲盛氏、被告=大分県)
訴状(原告=仲盛氏、被告=大分県)
※クリックで全文表示(PDF)

 ――大分県の回答には「建築確認済証および検査済証を交付していることから建築確認申請当時の基準は満たしていたものと考えています」とあります。

 仲盛 大分県はそう回答していますが、姉歯関連の耐震強度が不足した建物についても建築確認済証や検査済証は交付されており、違法建築物であっても審査ミスにより建築確認済証が交付されているのです。また、検査済証は建築基準関係規定に適合することを証明するものではなく、建築確認図面と施工が一致しているかを検査して交付するものです。

 現在の大分県の建築確認担当部署の職員が「ラ・ポート別府」の建築確認当時の審査内容を知るはずもないので、「建築確認済証を交付しているから建築確認申請当時の基準は満たしていた」ととぼける以外ないのです。

 「当時の規準を満たしていた」のであれば、私が指摘している「1階柱脚の鉄量」「柱脚ピンの場合の構造特性係数」「耐震壁方向の構造特性係数」について、設計図書の該当箇所を示して「適切に建築確認審査を行ったこと」を具体的に説明すれば済むことです。10 分もあれば十分できる作業です。大分県は、たかが10 分程度の立証作業さえも行いません。これは、「ラ・ポート別府」の不適切な設計を建築確認審査において見逃したことを大分県が認識しているからにほかなりません。

 大分県の建築確認審査が不備であったことは明白なので、建築確認済証を交付した大分県内のSRC造の建物すべてが、「ラ・ポート別府」と同じようにチェックが不十分なまま済証を交付されていると考えるべきであり、これらの建物について大分県は調査すべきです。私はこの調査を提案しているのですが、大分県は無視を決め込んでいます。

 ――「ラ・ポート別府」に関する大分県の対応を見ると、建築確認を担当する特定行政庁としての業務を放棄しているように感じられます。

 仲盛 熱海市の土砂崩れについて熱海市や静岡県の対応が問題となっていますが、違法な状態を放置していた点では、大分県の対応も同じです。熱海では不幸にも多くの方が犠牲になり、安否不明の方もいらっしゃいます。

 「ラ・ポート別府」の場合、1階の鉄量が大幅に不足しており、実質、耐震強度が60%も不足しているのです。また、柱コンクリート内部に必要な鉄筋がマンション全体で1,188本も不足しています。規準で定められている鉄筋量は、「特別な研究などを行っていない限り最低限守るべき規準」ですので、この基準に適合していない建物は最低限の強度を有していない建物なのです。

 それゆえ、大地震が発生した場合には甚大な被害が生じてしまい、マンション住人のみならず、近隣の住人や建物まで巻き込む事態となり、私を含めた「ラ・ポート別府」の区分所有者が加害者の立場になってしまうのです。

 私は加害者になどなりたくありませんし、多くの方が甚大な被害を受けることを見過ごすことはできないので、再三にわたり大分県に申し入れてきましたが、大分県は無視しています。このままでは「ラ・ポート別府」の倒壊により、近隣の住民に被害が生じることや区分所有者が加害者となる事態を防ぐことができないので、裁判という手段を選択したのです。

 ――「ラ・ポート別府」の柱の鉄筋が1,188 本も不足しているということですが、福岡の「パークサンリヤン大橋」(分譲:西日本鉄道、設計:福永博建築研究所)では、柱の鉄筋が7,400本不足していることなどを理由に損害賠償訴訟となっており、9 月13 日に判決が言い渡される予定となっています。

 仲盛 「ラ・ポート別府」の戸数42 戸と「パークサンリヤン大橋」の戸数205 戸では5 倍程度の差がありますが、どちらのマンションも大幅に鉄筋が不足していることに違いはありません。先ほど話したように、この鉄筋量の規準はあくまでも最低限の鉄筋量を定めたものですから、1つのマンションで数千本も鉄筋が不足していることは異常な状態です。

 このような異常な状態を指摘されても、調査すら行わない大分県の対応も異常です。たとえば、列車に異常があれば、いったん運行を停止して異常の有無を調べます。問題がなければ運行を再開すればよいのであり、マンションについても適切な調査を行い、適法性と安全性を確認できればよいのです。言い換えるなら、大分県は異常を知らせる警告灯が点灯していても列車を走らせ続けているようなものなのです。

(つづく)

【聞き手・文:桑野 健介】

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(後)

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