2024年04月19日( 金 )

IR事業者として飛躍できるか エンタメ企業セガサミー(前)

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セガサミー、IRへの挑戦

 世界的知名度を誇るキャラクター『ソニック』や、ゲームシリーズ『龍が如く』など、複数の人気コンテンツの権利を保有する(株)セガ。そして、パチンコ業界において強固なブランド構築に成功しているパチンコ・スロットメーカーのサミー(株)。両社は、2003年12月、サミーがセガを買収するかたちで合併し、04年10月、両社の持株会社としてセガサミーホールディングス(株)(以下、セガサミー)が設立された。

 セガサミーは、グループ企業であるセガのエンタメコンテンツ事業、サミーの遊技機事業、フェニックスリゾート(株)のリゾート事業などを統合的に管理することで経営の効率化を図り、グループ全体の収益力強化に取り組んでいる。21年3月期(連結)には、売上高2,777億4,800万円、経常利益17億1,500万円、当期純利益12億7,400万円を計上している。

 国内屈指のエンタメ企業にまで成長した同社は、21年6月11日開催の取締役会において、横浜市が実施する「特定複合観光施設設置運営予定者」の公募への応募を決定。同日、市に提案依頼書を提出し、受理された。セガサミーのIR事業への挑戦は、こうして始まった。

IR誘致合戦はまだまだ続く

 統合型リゾート(以下、IR)事業の実施が可能となる区域認定(国土交通大臣による認定)を求め、名乗りを上げた自治体は、大阪府・市(夢洲)、横浜市(山下ふ頭)、和歌山県(マリーナシティ)、長崎(ハウステンボス)の4地域。また、表明はしていないものの、東京都(お台場)、愛知県(常滑・名古屋)も少なからず動きを見せている。申請は22年4月28日まで受け付けるため、候補地は今後さらに増える可能性もあるが、最終的には最大3地域に絞られる。IR事業開始にともなう施設建設の効果は約5.6兆円、施設運営による経済波及効果は年間約2.1兆円との試算もあり((株)大和総研『統合型リゾート(IR)開設の経済波及効果』参照)、自治体間の誘致合戦は、その一挙手一投足が注目を浴びる。

参加表明自治体による試算概要
参加表明自治体による試算概要

 セガサミーは横浜IRへ最大約1,200億円を支出する予定だが、コンソーシアムでのIR事業にともなう同支出額は、同社の連結対象にはならない。それでも、IR事業者として選定されれば、株価上昇など、業績への好影響は期待できる。

 同社の横浜IRへの挑戦は、グループ会社のフェニックスリゾートを通じた「フェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県)」、韓国の合弁会社PARADISE SEGASAMMY Co., Ltd.を通じた「PARADISE CITY」といったリゾートやIR開発・運営で培ったノウハウを生かす機会でもある。協業相手は、シンガポールでIR「リゾート・ワールド・セントーサ」の開発・運営を手がけるゲンティン・シンガポール・リミテッド。横浜IR事業者の座を賭け、メルコリゾーツ&エンターテインメント(中国)と大成建設(株)からなるグループと一騎打ちという構図だ。

IR挑戦の陰で落ち込む業績

 IR事業の動向が注目される陰で、同社の業績は落ち込んでいる。既出の21年3月期の売上高は、コロナ禍の影響もあり前期比888億4,600万円の減収で3,000億円を割り込んだほか、経常利益も同235億7,100万円の減益となった。有利子負債が420億円のみで、自己資本比率は69.08%と依然強固な財務基盤を維持しているが、厳しい業界環境下にある主力の遊技機事業の発展は見通せない。同事業の売上高は531億9,800万円と前期比で半減し、経常利益は113億3,200万円の赤字計上となった。パチンコ・パチスロに対する規制緩和がなされれば状況は好転するかもしれないが、動きがあるとすれば旧基準機が撤去期限を迎える21年11月以降だろう。

左:パチンンコ開発に注力しているのはわかるが、正直この緑のやつ(エイリやん)はいらない  / 右:新基準機ながら評価の高いユニバ×カプコンのバイオ7
左:パチンンコ開発に注力しているのはわかるが、正直この緑のやつ(エイリやん)はいらない 
 右:新基準機ながら評価の高いユニバ×カプコンのバイオ7

 一方で、エンタメコンテンツ事業はコロナ禍の「巣ごもり需要」を追い風に好調な結果を残した。同事業における売上高は2,178億1,000万円と前期比297億9,400万円の減収だが、経常利益を見ると同116億4,400万円の増益となっている。これは主にパッケージ制作や販売手数料などの原価がかからず、利益率の高いゲームのダウンロード販売が進んだことが大きい。海外市場でも人気の高いコンテンツを複数持つ同社にとって、コンシューマーとのデータのやり取りで完結するダウンロード販売は、今後さらなる成長が見込まれる。

 IR事業挑戦のきっかけでもあるリゾート事業は、当然ながらコロナ禍で不振に終わった。売上高は前期比41億5,800万円の減収、経常利益は89億7,900万円の赤字計上となった。また、同事業においては新たなIR開発・運営ノウハウの取得など、横浜IR参画を視野に入れた取り組みに対する費用も発生している。

 同社は22年3月期の業績を、売上高3,120億円、経常利益200億円、当期純利益140億円と予想している。この予想を現実とするためには、遊技機事業とリゾート事業の復活が不可欠だが、どちらも前途多難だ。

(つづく)

【代 源太朗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:里見 治ほか1名
所在地:東京都品川区西品川1-1-1
設 立:2004年10月
資本金:299億5,312万円
売 上:(21/3連結)2,777億4,800万円

業績

(後)

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