2024年03月28日( 木 )

【球磨川水害から1年】復旧復興の「スピード感」を維持できるか(前)

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 2020年7月上旬に発生した球磨川水害から1年が経過した。球磨川の治水をめぐっては、今年1月には国土交通省が緊急治水対策プロジェクトを取りまとめたほか、今年3月には流域治水プロジェクトや被災自治体の復興計画が策定されるなど、行政の動きだけを追えば、復旧復興に向け、大きく前進しつつあるように見える。それはそれで良いが、気がかりなのは、はたしてプラン通りに物事が運ぶかどうかだ。「民意」とやらに流され、プランをコロコロ変更したおかげで、10数年間にわたってまともな治水対策が打てず、その挙げ句、水害に見舞われ、大きな被害を出したという事実があるからだ。球磨川の治水はこれからどうなるのか。現場取材を含め、最近の動向、今後の見通しなどについて、検証する。まずは、現場取材を基に、復旧復興の現状、見通しなどについて考察する。

八代復興事務所開設し、復旧が本格化

出水期に入ったため、仮橋の設置が中断している神瀬橋
出水期に入ったため、仮橋の設置が中断している神瀬橋

 球磨川水害の復旧をめぐっては、国土交通省は発災後まだ間もない2020年7月下旬に、河川、道路ともに国による権限代行の決定を下している。権限代行とは、河川法、道路法に定められた国による自治体救済規定で、技術的に自治体単独で災害復旧工事を実施するのは困難だと認められる場合、自治体からの要請を受け、国が工事を代行するスキームだ。権限代行制度の適用は、17年7月に発生した九州北部豪雨で、河川の災害復旧工事に福岡県朝倉市で適用されたのが全国初。

 九州地方整備局は20年9月、権限代行による復旧事業を実施するため、八代河川国道事務所内に八代復興出張所を設置。職員42名体制で、復旧工事に着手した。21年4月には、九州新幹線新八代駅近くに新たに八代復興事務所を開設。職員数も53名に増やし、本格的な事業執行体制を構築している。職員には、他地整、熊本県、八代市、NEXCOなどからの出向職員もいる。工事を担当する課部隊は、河川復旧、道路復旧、橋梁復旧の3つに分かれる。また、1日も早い復旧・復興のため、施工箇所職員が常駐する詰所を設置している。

球磨川権限代行のイメージ図(国土交通省資料より)
球磨川権限代行のイメージ図(国土交通省資料より)

国道219号は仮復旧完了、高速も無料開放

 球磨川沿いを走る国道219号は熊本県が管理する道路だが、大規模かつ高度な作業をともなうことから、権限代行により国土交通省が復旧工事を実施している。権限代行の対象は、国道219号の八代市と人吉市を結ぶ約50kmの区間、岸の県道272号線のほぼ同じ区間で、総延長は約100km。土砂で流出するなどの被害が出た10の橋梁も含まれる。

 道路の復旧作業の主なメニューには、両岸に点在する路面や法面の崩落箇所の復旧、道路のかさ上げ、流失した橋梁の残骸の撤去、代替ルートとなる仮橋の設置、本橋の架橋などがある。

 国道219号は20年8月に道路啓開作業が完了し、引き続き応急復旧工事を実施しており、地元車両や緊急車両など以外は、県により原則24時間通行止めになっている。一般車両の通行には、自治体などが発行する通行許可証が必要だ。工事区間内では、工事のため、多数の片側通行箇所などがある。通行車両の増加は、工事の安全、進捗に影響をおよぼす恐れがあるためだ。

仮復旧が完了した国道219号
仮復旧が完了した国道219号

 全面通行止めは、今後も継続される見通しだ。国道219号は、被災前から地元住民の生活道としての利用がメインで、通過車両はほとんどいない。通過車両は近くを走る九州自動車道を利用している。NEXCOは発災直後の20年7月、九州自動車道の八代IC~人吉IC区間について、国道219号などの代替路として、無料通行措置をスタートしている。

 ただ、今年5月、八代市坂本町にある国道219号で、大雨による法面崩壊が発生している。県は、崩落現場を含む34kmの区間を通行止めにした。この崩落箇所から上流700mほどの場所に流失した鎌瀬橋があった。仮橋の設置はすでに完了していたが、県の通行止めにともない、通行を見合わせている。このため、八代市方面へのアクセスには、県道158号線で迂回することにしているが、道幅が狭いため、大型車両は通行不可となっていた。

 なお、この規制は7月6日午前10時以降緩和され、一部車両の通行が可能になっている。

(つづく)

【フリーランスライター・大石 恭正】

(中)

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