【球磨川水害から1年】復旧復興の「スピード感」を維持できるか(中)
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2020年7月上旬に発生した球磨川水害から1年が経過した。球磨川の治水をめぐっては、今年1月には国土交通省が緊急治水対策プロジェクトを取りまとめたほか、今年3月には流域治水プロジェクトや被災自治体の復興計画が策定されるなど、行政の動きだけを追えば、復旧復興に向け、大きく前進しつつあるように見える。それはそれで良いが、気がかりなのは、はたしてプラン通りに物事が運ぶかどうかだ。「民意」とやらに流され、プランをコロコロ変更したおかげで、10数年間にわたってまともな治水対策が打てず、その挙げ句、水害に見舞われ、大きな被害を出したという事実があるからだ。球磨川の治水はこれからどうなるのか。現場取材を含め、最近の動向、今後の見通しなどについて、検証する。まずは、現場取材を基に、復旧復興の現状、見通しなどについて考察する。
仮橋設置で 通学、生活ルートを確保
昨年の水害では、球磨川に架かる橋の半分に当たる10の橋梁が流失した。流失した橋梁のほとんどは、建設から約40年以上が経過した古い橋で、経年劣化しているうえに、橋脚の基礎をはじめ、もともとの構造物の強度自体も、現在の基準と比べると、非常に弱いものだった。流されるべくして流されたといえる。
このうち、西瀬橋については20年9月、鎌瀬橋、坂本橋、相良橋については、今年5月に代替ルートとなる仮橋(仮設ガーター橋)の設置が完了している。神瀬橋でも仮橋の設置が進められているが、出水期に入ったため、現在はストップしている。11月から再開される予定だ。
西瀬橋は地元小学校の通学路となっており、迂回すると交通事故のリスクがあったため、比較的早期での仮復旧となった。ほかの3橋については、左岸側の集落住民にとって、対岸にわたるための生活ルートだった。仮橋設置前は、対岸にわたるのに大きく迂回せざるを得なかったが、仮橋の設置によってその不便が改善された。
流失した橋梁の撤去は、流失物の状況や水深などの条件に基づき、それぞれの状況ごとに撤去計画を立案。今年5月までに、そのほとんどの撤去を完了している。
河道掘削で70万m3の土砂を撤去
球磨川はもともと国管理の一級河川のため、復旧は直轄工事で実施される。球磨川の県管理区間の9つの支川については、権限代行によって国土交通省が復旧工事を行っている。河川の事業区間は、球磨川中流部の遙拝堰~小川合流地点の間となっており、道路の区間とほぼ同じだ。線引きがわかりにくいが、本格的な河道掘削、堤防整備などは、緊急治水対策プロジェクトとして実施される予定だ。
河川の復旧作業の主なメニューとしては、土砂・流木の撤去、護岸などの復旧、河道掘削がある。球磨川本川の堆積土砂の掘削は、今年5月末までに約70万m3の土砂を掘削済みだ。掘削した土砂は、いくつかの場所に仮置している。将来的に宅地かさ上げなどを行う際、盛土の一部として活用するためだ。
球磨川国管理区間では、堤防決壊2カ所、護岸等の被災29カ所の災害復旧工事を実施しており、堤防が決壊した2カ所については、21年5月末までに本復旧が完了。また、護岸等の被災箇所については、緊急性の高い18カ所については本復旧が概ね完了し、21年度なかに全29カ所の本復旧完了を目指す。
権限代行9支川では、護岸等の被災約140カ所のうち、約90カ所に着手し、残り約50カ所も含め、21年度中に全箇所の本復旧完了を目指す。
6月~10月は、出水期に当たるため、河道掘削など一部の作業を除き、工事はストップしている。この間再び大雨に見舞われるリスクはあるが、本復旧が完了していない箇所については、応急復旧などを実施して出水に備えている。
道路復旧の迂回路として、JR線路を活用
鉄道インフラも大きな被害を受けた。球磨川沿いを走るJR肥薩線は、2つの橋梁が流されたほか、川沿いでは土砂や流木などによる線路の損壊が多数発生。とくに瀬戸石駅については、駅周辺の建物もろともすべて土砂に押し流され、消失した。
現在も、八代~吉松を結ぶ約86kmの区間で不通が続いている。JR九州では、八代駅~坂本駅、一勝地駅~人吉駅をそれぞれ結ぶ一部区間で、タクシーによる代替輸送を実施している。
肥薩線再開の見通しは、極めて不透明だ。復旧には膨大なコストがかかるうえ、もともと赤字路線だったことなどから、JR九州は、これまでのところ肥薩線復活について、明言を避けている。少なくとも、向こう数年は不通状態が続くことは間違いない。
その証拠というわけではないが、線路と道路と並走する一部区間では、道路の応急復旧工事のための迂回路として、工事用道路として利用されている。その多くは左岸側の県道だが、国道219号でも活用されている。線路を迂回路利用している現場は現在11カ所ほど。JRに使用料を支払い、応急復旧完了後、JRに返却する約束になっている。この点、八代復興事務所の担当者は「一日でも早い復旧を目指すために現場で使えるものは、線路でも使うという発想が大事」と話す。
(つづく)
【フリーランスライター・大石 恭正】
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