2024年03月29日( 金 )

【企業研究】疑問だらけの前期決算 「リモートタウン宮若」に大型投資~(株)トライアルカンパニー(後)

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 トライアルカンパニーの2021年3月期決算は営業収益が前期比6.6%増の4,562億円、経常利益84.2%増の67億9,700万円となった。表面上は増収大幅増益だが、分社化した小売子会社などの業績は非公表で、額面通り受け取れない。同社は福岡県宮若市で総事業費50億円をかけAI(人工知能)カメラの開発拠点や複合宿泊施設などから成る「リモートワークタウン ムスブ宮若」を推進中で6月下旬、第1弾が稼働を始めた。本業の収益への寄与は未知数で、事業多角化の一環なのか、意図も判然としない。コロナ景気が終わり、本業の収益力強化は待ったなしだ。

粗利益率0.73%

 分社化で会社の全体像が見えにくくなり、決算の信頼性が低下したのは否めない。恣意性をうかがわせる1つが粗利益率だ。

 粗利益率は分社化をほぼ完了した17年3月期は9.83%だったが、翌18年は一気に3.40%、19年は2.59%、20年1.17%と一貫して低下、前期は0.73%と1%を切った。小売子会社の取り分を年々増やしていったためだ。

 一方で、子会社から徴収する家賃・各種手数料は17年3月期の97億7,200万円から売上と店舗の増加にともない18年213億600万円、19年260億5,200万円、20年261億3,800万円と年々増加。前期は310億5,300万円と、全体の増収率を大幅に上回る19%も増やした。子会社の負担が増していったことがうかがえる。小売子会社にとっては粗利益増と相殺されたかたちになる。

 20年にわずかしか増やしていないのは消費増税で小売子会社の売上が苦戦したのを配慮したためとみられる。同期のトライアルの経常利益は36億9,000万円と47.3%の大幅減だった。

 本社は卸値を下げた代わり、家賃・手数料を増やすことで収益を上げてきた。家賃・手数料を毎年、本社が恣意的に決めているとすると決算自体の信頼性が揺らぐ。

トライアルグループの構成

経費は子会社に

 疑問点の2番目は経費だ。前期は大型店13店を出店しながら販管費は273億円でわずか0.2%しか増えていない。消費増税の逆風に苦しんだ20年3月期は大型店21店を出店したにもかかわらず7.2%減だった。20年、21年とも本社の経費減になる新たな分社は行っていない。

 出店にともなう経費などを子会社に負担させていると考えられる。そうだとすると本社の都合で経費を子会社につけ回していることになり、業績を正しく反映した決算とはいえない。

 最大子会社でスーパーセンターを運営するトライアルオペレーションズが官報に告示した19年3月期決算は、売上高2,932億7,400万円、経常利益2億2,700万円、当期純利益3億3,800万円で、経常利益率はわずか0.08%だった。20年は売上高3,279億8,100万円、経常利益14億4,900万円、当期純利益12億7,100万円で、経常利益率0.44%だった。手数料を取られるだけでなく経費を負担させられる子会社の利益率は低く、収益は本社の都合に左右される。

改善進まない自己資本

本業の収益力強化が課題
本業の収益力強化が課題

 分社化後もトライアルの自己資本比率は低利益が続いたため改善されていない。前期は大幅増益を計上しながら、純資産は284億円と23億円目減りし自己資本比率は16.1%から13.6%に悪化した。利益が内部留保でなく親会社への配当に回ったためで、利益の蓄積である利益剰余金は240億円と逆に23億円減少した。有形固定資産が55億円増えており、一部を利益剰余金の取り崩しで賄ったと思われる。

 有利子負債は過去5年、微増傾向にあるものの月商換算では1カ月を切る。出店資金は支払いサイトと商品回転率の差を利用した回転差資金で調達しているためだ。店舗などの固定資産を、長期資金である固定負債と純資産でどれだけ賄っているかを示す長期固定適合率は170.3%で、大量出店しているコスモス薬品の118.9%を大幅に上回る。100%を超えるのは買掛金などの短期資金を出店投資に流用していることを示す。この手法は出店が止まると使えず、逆に資金不足に陥るリスクがある。

HDが利益吸い上げる

 不可解な点は親会社にもある。21年3月期のHDの経常利益は68億6,400万円(前期比339%増)、当期純利益65億900万円(259%増)で、トライアルより多く、当期純利益は63%も上回る。

 HDは子会社から受け取る配当と経営指導料が収益源で、いずれも大半を最大子会社トライアルが占めるのは間違いない(同社以外に配当余力のある子会社は見当たらない)。

 HDは19年3月期まで数億円程度の経営指導料を徴収するだけだったが、20年は一気に15億4,700万円に増やし、配当10億円を初めて受け取った。21年はこれらが総額で89億円と3.5倍に跳ね上がった。子会社の資本蓄積を急ぐべきなのに、親会社が利益を吸い上げるのは解せない。両社は事実上一体で、いずれ合併を視野に入れているのかもしれない。

 HDは前期、奇妙なことに税金を1円も払っていない。その前の期は2億800万円支払った。資本金1億円で、もともと税務負担は軽いとはいえ、税金ゼロの理由は不明だ。

求められる透明性

 今期からグループの決算期を6月に変更、6月末に3カ月11日の変則決算をしたうえで7月から通年決算に移行する。前年との比較が難しくなり、不透明さが一段と増す。

 今期の出店は5月開店の青森県おいらせ店と7月の上熊本、10月宮田店と名古屋港店の計4店が判明している。リモートワークタウン計画に人とカネを割かれ出店が制約を受けるのは否めない。

 コロナ景気の反動で流通企業の経営環境は一変している。経営の透明性を高め、収益力強化に集中することを迫られている。

(了)

【工藤 勝広】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:石橋 亮太
所在地:福岡市東区多の津1-12-2
設 立:1981年7月
資本金:21億2,335万円
営業収益:(21/3)4,561億8,500万円

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