2024年03月29日( 金 )

すでに始まっていた、樋井川の「流域治水」(後)

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2つのため池を確保

 福岡市道路下水道局の担当者に聞いてみると、今のところ「治水池」として運用中のため池は13池あり、「整備計画の目標を達成している」という。最終的には、基本方針に定める25m3/sまで増やしていく必要があるが、この点、「今後の整備で25m3/sを目指す」と話す。現時点で、治水池として整備していくため池の数をたずねると、「2池」と答えた。1つは「源蔵池(げんぞういけ)」、もう1つが「道手池(どうていけ)」だ。源蔵池は桧原(ひばる)財産区所有で、治水池として管理できるよう協議を進めているところ。道手池は市の農林水産局所有で、今後、所管替えなどの手続きを行っていく。今年度内に2池の測量などを実施する予定だ。

 ため池を治水池として市に移管するには、いろいろなハードルがある。「農業用として使わないなら、いらないでしょ」ということにはならない。「ため池としては使っていないけれども、子どもが遊ぶ水辺空間なので、水がなくなっては困る」とか、「広場として使いたい」とか、地元住民のニーズはさまざまだからだ。運用を工夫すれば、対応できないニーズではないような気がするが、市としてどこまで踏み込むかは、判断の分かれるところだろう。

左:源蔵池/右:道手池
(福岡市提供)

「ため池」は「奇貨」となるか

 流域治水について、親玉である国土交通省と農林水産省が手を組んだことによって、市内部の潮目が変わる可能性はある。市農林水産局として、「ため池を活用して治水に貢献した」という先行事例が生まれれば、局組織にとって良いPRになるだろうからだ。何かの間違いで、樋井川の河川整備基本方針に流域治水が盛り込まれたのだったとしても、流域治水が国策となった今となっては、時代を先駆けたベストプラクティス、「奇貨」となる可能性がある。

 今のところ、流域治水は「ただのスローガン」に過ぎず、理念としてはすばらしいが、実際の治水対策として基本方針、整備計画に盛り込めるものなのか疑問だった。ところが、樋井川でそれをやっていた。しかも7年も前に。これは、私にとって「嬉しい誤算」だった。今後、樋井川流域の治水池が効果を発揮するような事態が起きないに越したことはないが、この取り組み自体は、流域治水の先行事例として、もっと知られてよいと思われる。

(了)

【フリーランスライター・大石 恭正】

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