2024年04月24日( 水 )

緊張下にある米中関係と改善に向けての日本の役割(後)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

「ワクチン」と「健康食」との統合

 習近平国家主席の訪日計画はコロナ禍の影響もあり、宙に浮いたままであるが、イタリアで来る10月末に開催予定のG20サミットではバイデン大統領、菅総理に加え、習主席の出席も想定されているため、日中首脳会題が実現すると思われる。

 2022年は日中国交正常化50周年という記念すべき年でもある。このチャンスをいかさない手はない。その意味で、日米中3カ国が協力して取り組むべき課題は第一に新型コロナウイルス対策であろう。ワクチンに関しては現状では深刻な副反応も報告されており、どのワクチンについても効果に疑問が出ている。人類全体にとっての挑戦であることに鑑みれば、個別のワクチンメーカーや国家の枠を超えての知見や技術面での国際的な協力が必要と思われる。

 それと同時に、ワクチンの欠点を補う観点から食の在り方を日米なかで模索することも有意義に違いない。なぜなら、ハーバード大学やロンドンのキングス・カレッジではコロナ感染を防ぎ、重篤化を回避する効果が「プラントベースダイエット」(自然食)に秘められていることを実証しているからである。

 また、東京農業大学は発酵食品の専門家を多く擁しているが、納豆菌がコロナ対策で有効であるとの研究成果を発表している。ということは、「医食同源」を誇る中華式薬膳料理などとの組み合わせは最強のコロナ予防食になる可能性があるといえるだろう。「ワクチン」と「健康食」との統合は新たな国際協力のモデルになるに違いない。

 加えて、TPP11やRCEPを最大限に活かす方策も日米中3カ国の共通の課題になり得る。トランプ前政権がTPPから離脱をしたため、日本はアメリカ抜きの11カ国で新たな自由貿易圏構想を推進してきた。しかし、バイデン政権になり、TPPへの復帰の可能性が芽生えてきている。

 さらには、RCEPへの加盟を実現した中国がTPPへの参加にも前向きな姿勢を示しているため、日米中が参加する巨大な経済圏が誕生することも視野に入ってきた。RCEPは15カ国、22億人の市場をカバーする。中国の参加によってIMFよりはるかに有利な条件で途上国への融資が可能になることのインパクトは大きい。

 もともと中国の封じ込めを意図して構想されたTPPであるが、中国がRCEPの次のステップとしてTPPへの加盟を目指す動きを見せ始めたことで新たな局面がみえてきた。なぜなら、2020年の中国のGDPはアメリカの73.6%であったが、2031年には98.7%とアメリカとほぼ同等になることが確実視されているからだ。2020年、中国の国防予算はGDPの1.15%であった。一方、アメリカの場合は3.6%であり、この傾向が続けば、2031年のアメリカの国防予算は9,110億ドルに達する。これはアメリカ経済にとって大きな足かせとなるだろう。

米・中・日が「三方良し」の方向へ

世界平和 イメージ 無益な軍事衝突に人命や巨額の資金を投入する意味は見出せないだろう。人間の健康という新たな安全保障の在り方を模索するよう、コロナ危機は人類の共存共栄への道筋を示しているはずだ。環境問題もエネルギー危機も、すべてが連動しているのが21世紀の世界の実態である。日米中3カ国が環境と健康に配慮したスマートシティ構想で協力することも望ましい。

 逆にいえば、すべての国家が政治体制やイデオロギーの違いを乗り越え、共通の目標を目指して協力しなければ、共倒れという運命に呑み込まれてしまう。そんな時代に我々は生きているのである。だからと言って、地球を見捨てて火星に移住するとか、人体を改造してサイボーグ化するといった選択肢は人間本来の生き方を否定することにつながるだけであろう。

 やはり大事なことは、この同じ時代を生きる生身の人間同士の信頼関係と運命共同体という発想で目前の対立や価値観の相違を克服することであろう。世界の未来をけん引するアメリカ、中国、日本という3大経済大国が対立し、不信感に苛まれるのではなく、相互の強みや特徴を理解し、ウィン、ウィン、ウィンの「三方良し」の方向を目指すべきである。そのためにも、3カ国の指導者も国民も、アジアから世界全体を見渡し、あるべき理想の人間社会を描く場を共有することが最優先で求められる。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(中)

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