2024年04月24日( 水 )

孫氏とアローラ氏の訣別を決定的にした日本ヤフーの売却問題(前)

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 久々に“孫節”が炸裂――。携帯電話会社ソフトバンク(株)は4月1日、2016年度入社式を行った。持ち株会社ソフトバンクグループ(株)代表の孫正義氏は、新入社員486人に向けて挨拶した。
 「モンゴルの風で発電し、インドでは太陽光で発電し、これを日本に持ってくれば良いのではないかと構想しました。4年前には笑われましたが、一昨日、中国、韓国、ロシアの電力会社、そしてソフトバンクグループとで、電力網に関する覚え書きを調印しました」。
 こうした気宇壮大な構想力が、孫氏の持ち味だ。

中韓ロ社と、北東アジアの海底を送電網でつなぐ調査で覚書

office9min ソフトバンクグループは16年3月30日、中国最大の送電会社の国家電網公司、ロシアの送電会社ロシア・グリッド、韓国電力公社と、国境を超えて送電網を結ぶ事業化調査をすることで合意したと発表した。
 中韓や日韓、日ロ間をつなぐ総距離600kmほどの海底ケーブルの敷設に向けて研究、検証などに取り組む。各国の政府や電力会社などにも協力を働きかけて、2020年頃の一部完成を目指す。

 孫正義氏は大きなプランを描いて実行する。“大風呂敷”と言いたい人がいれば、言わせておく。悔いを残さないようにガンガンやる。高い目標をぶち上げて自己暗示にかける。孫氏の人生をずっと貫いてきたやり方だ。

 モンゴルの風力発電を日本で使う――。いかにも孫氏好みの気宇壮大な構想である。

モンゴルの風を、日本へ電気として送る構想

 孫正義氏の壮大な夢が動き出したのは、3年前だ。朝日新聞(2013年9月11日付朝刊)が「電力の風、モンゴルから」とのタイトルで、〈乾いた風が、見渡す限りの高原を吹き抜ける。東京から約3千キロ離れたモンゴル南部のゴビ砂漠。この風をとらえ、日本へ電気として送ろうという壮大な構想が動き始めた〉と報じた。
 東京電力・福島第一原発事故の後、孫氏が打ち出した「アジアスーパーグリッド」構想だ。

 ジンギスカンが馬を走らせたモンゴル砂漠の片田舎のサルクヒトウル。首都ウランバートルから南に70km離れたこの地域は、「風の山」と呼ばれる1年中激しい風が吹き荒れる場所だ。この荒涼とした不毛な大地に、風力発電を設置。ほとんど無限な風を電気に変えて、中国・韓国・日本まで引いてきて使う。これが「アジアスーパーグリッド」構想。グリッドは送電網の意味である。

 連系網を使って日本に送電して、海外に比べて割高とされる国内の電気料金を安くできる。孫氏は「アジアの電力王になる」と、電力事業に野心を見せていた。
 こうした気宇壮大なアドバルーンをぶち上げるのが、孫氏の得意芸だ。この構想を発表したとき「大ボラ」と物笑いの種になったが、次々と打ち上げたアドバルーンを現実にしてきた実績がある。「彼ならやるかもしれない」と思わせるものが孫氏には備わっている。

 携帯電話世界一になる野望の前に、「アジアの電力王」となる野心は消えたかに見えたが、旗を下ろしたわけではなかった。中韓ロ社と送電網調査で合意した。久しぶりに孫氏らしい仕事だと思った。

アローラ氏の投資手法は「回収のメドがない投資はやるな」

 ニケシュ・アローラ前副社長は、アジアスーパーグリッド構想に一切関わっていない。孫氏の勘に頼る投資手法を「趣味的」と酷評しているアローラ氏にとって、実現性があるのかどうかわからないアジアスーパーグリッド構想は、理解できなかったに違いない。

 アローラ氏の投資手法は、「回収のメドがない投資は行うべきでない」というスタンスだ。中国、韓国を通る送電網は、政治的緊張が高まれば切断されるリスクが高い。切断されたら、投資分はパーだ。回収が危ぶまれる投資なんかに手を出すつもりは、当然のことながらない。

 アローラ氏は「選択と集中」というオーソドックスな投資手法を採る。インド、インドネシア、韓国のネット通販会社に投資を集中する一方、ガンホーやスーパーセル(フィンランド)といったゲーム会社など非中核事業は売却した。

 孫正義氏とニケシュ・アローラ氏は2014年には「毎日一緒にいる」とお互い親密な仲だったのだが、たった2年で修復不可能なまでに関係が悪化した。決定的だったのはヤフージャパン(ヤフー(株))の問題だ。

(つづく)

 
(後)

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