2024年03月29日( 金 )

「考察」ポストコロナの商業デザイン~前編~

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「一見さんお断り」のお断り?

 京都・祇園には、しばしば「一見さんお断り」のお店が見られる。祇園の通りからは、それらを背景にした建築思想が見えてくる。

 「一見さんお断り」は、人が紡いでいく“信用の数珠つなぎ”のようなもので成り立っている。そのため、過度に目立つ看板も必要ない。ファサードにも窓はなく、ひっそりとして空間を閉ざし、外界との関わりを断つことで、その場所の価値を高めるつくりだ。

 京都の人は文化民度が高く、都市としては長い年月を経てきた分、外界よりも内側に交流を開くと聞くが、実際はどうだろうか。町屋の構造は、間口が狭く奥に長い「ウナギの寝床」といった独特なもの。ファサードは閉ざされ、中央部に箱庭などの外部空間が点在しているところが多い。箱庭に向かって“内なる外”をつくり出すわけだ。

 以前であれば、旅先などの新しい店や未開の訪問先はワクワクして刺激的な感覚を楽しめたのだろうが、コロナ禍の今は、それも抵抗―店を出た後に“何か良からぬもの”を連れて帰っていないだろうかという感覚―が顔をのぞかせる。「おいしいものを探して歩く」ということを、最近はめっきりしなくなってしまった。

 京都・祇園で「新しいお客さんはご遠慮しておりますが、今回は特別に…」といわれると、以前なら誇らしい感覚だったが、今では(金や度胸といった俗めいたものは置いといて)行ったことのない初めての店には、躊躇する感覚のほうが強くなっている。馴染みの客や、古くから知っている店長が経営する店、行ったことのある施設、多くの人が利用していて安全だと感じられる場所を選ぼうとしているのだ。「『一見さんお断り』のお断り」と言ってもいいかもしれない。

花街は信用の数珠つなぎ
花街は信用の数珠つなぎ

キャナルシティ・金曜の午後

運河(キャナルシティ)
運河(キャナルシティ)

 2021年夏、緊急事態宣言中の「キャナルシティ博多」。午後3時を回った金曜の午後も人はまばらだ。「今日は臨時休館」と言われても疑う余地のないほどに人通りは少なく、閑散としていた。

 1996年に開業したキャナルシティ博多は、福岡県を代表する商業施設だ。デベロッパーは福岡地所(株)。当時のプロジェクトリーダーが何百通りものプランを描き、なかなか納得できるものがないなかで見出した希望の光だったらしい。建築デザインはアメリカの建築家ジョン・ジャーディが担当。外観に色鮮やかな着色と、回遊廊下が蛇の軌跡のようにクネクネと蛇行しているのが彼の作品の特徴だ。六本木ヒルズや電通本社ビル、なんばパークスといった国内有数の建築物にも彼の思想が入っている。

 「人はまっすぐに歩かない」――それがジャーディの設計哲学だった。大型の商業施設では、異色の造形を醸し出す。キャナルシティ博多はとくに開放性が高く、屋根は開けたオープンモールである。祇園の建物は内に世界を宿して外との関わりを断絶するが、キャナルシティ博多のような大型商業施設は、当然逆のつくり方をする。「All Welcome!」全方位に向けて開かれた施設だ。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

 

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