2024年04月20日( 土 )

鳥栖市で量子医療の講演会 量子機構と国立がん研の理事長が講演

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 『量子とゲノムが拓く未来のがん医療』をテーマにした(一社)量子医療推進機構(佐賀県鳥栖市)主催の量子医療推進講演会が10月30日、JR鳥栖駅近くの「サンメッセ鳥栖」で開かれ、量子科学技術研究開発機構(QST、千葉市)の平野俊夫理事長と国立がん研究センター(東京都中央区)の中釜斉理事長が講演した。

 鳥栖市には九州国際重粒子線がん治療センター、佐賀県立九州シンクロトン光研究センター、産業技術総合研究所九州センターの3施設が近接して立地。重粒子線がん治療センターを経営する(公財)佐賀国際重粒子線がん治療財団の中川原章理事長は希少がんの1つ、小児がん研究の第一人者。
 同推進機構は、この環境を活かして同市への量子医療施設の誘致や関連薬剤の研究開発を進める狙いで19年10月に設立。不定期的に研究会を開く一方、啓発目的の講演会を年1回開いている。

 この日の講演会に平野氏はリモートで参加し、炭素イオンを光速の8割に加速させてがん細胞を照射する重粒子線治療など量子医学に対するQSTの取り組みを紹介した。
 現在、炭素イオンに酸素、ヘリウムも組み合わせた「マルチイオン」を、小型化した装置でがん細胞に照射する『量子メス(第5世代重粒子線がん治療装置)』を開発中で、働きながら治療し切らずに治す「がん死ゼロの健康長寿社会」を達成したいと強調した。
 国内で主流の重粒子線治療装置は長辺60m、短辺50mと大きく専用建物に格納する。一方、『量子メス』は長辺20m、短辺10mのサイズで市中の病院に置ける。平野氏によると、そのためにはマルチイオン照射のほか、電気抵抗をなくした超電導技術による円形加速器(シンクロトン)や回転ガントリー(放射線発生装置)の小型化などをさらに進める必要があるという。

 一方、中釜氏は、がんの原因となった複数の遺伝子異常(遺伝子の傷)を調べて特定のがんの診断や有効な抗がん剤の選択などに用いる「がんゲノム医療」を取り上げた。

 遺伝子異常を調べるには、これまでがん組織を採取して検査していたため、多発転移がんや進行がんでは容易ではなかった。中釜氏は「最近は身体への負担が小さい血液や尿、髄液などを検査する『リキッドバイオプシー』で同等の診断が可能になった。がんの超早期発見や再発リスクの判定に使えるようになっている」と話した。

量子メスやがんゲノム医療が紹介された講演会の会場。平野俊夫QSТ理事長はリモートで参加した。
= 佐賀県鳥栖市本鳥栖町の「サンメッセ鳥栖」大ホール
佐賀県鳥栖市 南里秀之(nanrihideyuki 日本医学ジャーナリスト協会西日本支部)

【南里 秀之】

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