天神ビジネスセンター竣工に見るこれからの「都市空間」推論(前)
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脱成長という新たな視座
販売員は毎年、前年よりも多くの商品を売ろうとする。研究者はより多くの論文を発表しようとする。消費者はいっそう大きなテレビへと買い替える。経営者は事業拡大の道を模索する。ゼネコンはビルを建設する先頭に立つ。もっと生産し、もっと消費する――それが豊かな暮らしだという想定を疑うこともないだろう。
皆それぞれに社会的な役割を全うし与えられた役割をこなしていく社会。そのなかで建築家は、「建築する」という宿命とどう向き合っていくべきだろうか。
近年、人類の経済活動が「地球の限界」を突破してしまったという警鐘が鳴らされるようになってきた。気候危機、パンデミック…生物多様性の損失、砂漠化、窒素循環の攪乱など、解決の見込みもないような数多くの問題が、この惑星の未来を脅かすようになっている。
「脱成長論」は、人類がこれまでとはまったく違うかたちで、これまでよりも少なく生産し、少なく消費していくことを訴えている経済思想活動だ。建築家の仕事の多くは、新たに構造物を「つくる」という前提で進んでいくが、ここにも新たな視座が加算されていくことだろう。
次代の「輝く都市」とは
「天神ビッグバン」は、航空法高さ制限の特例承認や、福岡市独自の容積率緩和制度などで、さらに高層群化させる再開発プロジェクト。その第1弾としての「天神ビジネスセンター」(以下、天神BC)が、9月末に竣工したとして注目を集めている。
しかし、コロナ禍の竣工となったこの建築を目の当たりにしたとき、期待に反して何だか違和感を覚えてしまった。アフターコロナでは高密度化にブレーキがかかり、分散化が促進されると言われているからだ。天神BCのような大規模再開発では、コロナ禍以前に計画が始まり、コロナ禍とともに進行し、途中で多少の軌道修正を加えることができたとしても、根幹の構造まで変えることは不可能だっただろうから、関係者も複雑な心中であるに違いないと察する(筆者自身もこの業界に身を置いているので、どのような方法で方向転換していくべきかは、目下研究中の身である)。
かつて、モダニズムの巨匠ル・コルビュジエが1930年に提唱した「輝く都市」は、人口過密で環境の悪化する近代都市を批判した。高層ビルを建設して空地(オープン・スペース)を確保、街路を整備して自動車道と歩道を分離し、都市問題の解決を図ろうとした理想の都市構想である。容積率を上げて延床面積を増やす経済活動。現代では「コンパクトシティ」と呼ばれる。
これは、経済効率の良い街のかたちを地方都市に持ち込む考え方で、21世紀の都市の在り方を模索する良案として鎮座してきた。しかし、パンデミックによる変化のなかでは、少々分が悪い。都市一極集中ではなく分散、開放性を上げ、疎空間にしていくことが求められるからだ。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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