2024年04月18日( 木 )

天神ビジネスセンター竣工に見るこれからの「都市空間」推論(後)

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不動産価値の転化

 不動産業界もまた、変革を求められている産業の1つだ。従業員の1割がテレワークになった場合、東京都心5区の空室率は15%近くに急上昇し、平均賃料も約2割下落するという予測(日本総研)がある。オフィスの空室率は4%が分水嶺といわれている(4%を超えるとテナント側が、4%を切るとビルオーナー側が優位になる)から、かなりのインパクトだ。

 テレワークの世界では面白いことに、役職が上の人間ほど「やることがない」らしい。テレワークは、日本企業へ労働生産性を向上させるヒントを与えてくれた。「誰もが好きな場所で暮らし、好きな場所で働ける」不動産価値の転化だ。これからのオフィスは、ヘッドクォーター部分だけにして、営業やその他の部門の多くは、テレワークにする――在宅勤務だけではなく、コワーキング施設やサテライトオフィスなども活用して、業務の指示や研修などもオンライン化が進むことで、立派な本社ビルという存在は次第に空疎なものになるだろう。

空間密度を下げ、疎空間に開く例
空間密度を下げ、疎空間に開く例

 働き方が多様になると、住む場所も変化する。人口分布が流動化され分散されることで、オフィスは不要になるのではなく、街や住宅に埋め込まれていくのだ。しかし、そのような流れにあっても、やはり都心が良いという価値の再発見もあるだろう。単に疎空間である郊外開発に走るのではなく、ビジネス、家族、市民のそれぞれがソーシャルディスタンスを達成できるコミュニティデザインで、空間を創造していくことが重要なのだ。

 空間利用において機能集約をして疎空間へと導くならば、たとえば延床面積を減らすという手法はどうだろうか。1階、3階、5階、7階…と奇数階だけ残し、偶数階を間引くことで、居住空間の密度を開疎化させる。その分、あふれ出た中空の空間をどのように豊かに創っていくか。建築の在り方は、外側の接点と内側の密度を変革する構成が望まれている。少なくともそのような合理性が出てきてもおかしくない。すると賃料はどうだろう。分散された需要に対して、賃料は下がっていかなければならない。借主の営業実績に応じた家賃配分、最低家賃制度など、単なるエリア相場ではなく、これからの不動産価値は物件や、物件が存在する地域の個別性(内装デザイン、衛生環境、通信環境、防犯・災害対策、地域コミュニティの充実度等)で評価されるべきだろう。

 疎空間に開く「開疎化」のマインドを加速させるには、空間体験をする建築業界、不動産業界からまず変わっていく必要がある。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

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