2024年04月20日( 土 )

衰え続ける日本、根本的問題はどこにあるのか~政治と教育(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 失われた10年(1990年初頭から2000年初頭)は、もはや「失われた30年」になろうとしている。いざなみ景気など景気向上の時期がありながらも、かつての経済大国日本は過去の栄光にすがりつくしかなく、驚異的躍進を遂げた中国に圧倒的な差をつけられた。そして、リーマン・ショックや新型コロナウイルス蔓延を理由に、日本は根本的解決から目を反らす、いわば他責とし、みるみる衰退の一途をたどっている。
 では、日本衰退の根幹はどこにあるのだろうか。OECD(経済協力開発機構)で日本人初の事務次長を務めたことのある谷口誠元国連大使・元岩手県立大学学長。日本有数の大手商社マンとして世界を駆けめぐり、現在、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、名古屋市立大学特任教授などを務める中川十郎氏。2人が行き着いた答えの1つは、「教育」の在り方と向き合い方であった。

(聞き手・構成 麓由哉)

日本の教育の在り方

谷口 誠 氏
谷口 誠 氏

 谷口氏 GNP、GDPなどを取り上げましたが、国の本当の力というのはそれだけで測るものではないとも考えています。人口が減少すればGDPは下がりますし、逆も然りです。これからも日本の人口が減少するのは間違いなく、別の目線で捉えることも重要ではないでしょうか。ただ経済規模だけで比較するのではなく文化、教育も踏まえてみていく必要があります。国単位でいえば、経済が最も大きな国が世界のリーダーとなるべきか、と言ったらそうではありません。その国の人口・経済規模などの量だけではなく、国民性などのクオリティ(質)が問われてきます。

 これからの日本にとって最も重要なことは、1にも2にも教育です。しかし、日本の教育費は、OECD先進国のなかで、米国、韓国に伍して最も高く、政府の助成金も、OECDの平均を下回っています。スウェーデン、ロシア、フランスなども授業料は政府が負担しています。これからの日本は科学技術立国として発展しなければ、日本の将来は明るくありません。私が岩手県立大学の学長をしていたときの経験では、文科省の科学技術助成金は3年単位で成果を挙げるものに出し、より長期的な研究には助成金は出ませんでした。これでは、長期的イノベーションを促進することはできません。 

 中川氏 谷口大使は、これまで外交官として、とくに経済外交ですばらしい実績を上げられ、日本に貢献してこられました。外交官を退官された後も、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任、教育に携わってこられましたが、国民性などのクオリティとはどのような部分が重要だと思っておられますか。

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

 谷口氏 私のいう国民性とは、官僚や財界人、政治家などのエリートだけを指したものではありません。私はこれまで外交官として、25年間海外で5国カ生活をしてきました。そこで海外と比較して日本の庶民のレベルの高さを感じることが多々ありました。それは日常生活でも多くあります。

 たとえば、日本のスーパーで果物を買う際に、店員さんから「もっと質の良いものがありますので、お待ちください」と言われ、交換してくれたことがあります。外国ではこれほどの「親切心」を感じたことはありません。これは、日本の誇りであり、世界で認められるものです。しかし、それが日本の政治や経済につながっていない状況となっています。むしろ、トップ大学の卒業生などの日本を牽引するだろうエリートと呼ばれる人たちのなかには、自己利益だけを考えて働いているように思われる人もいます。

 また、それは日本政府の教育機関に対する助成金の数字として出ています。日本政府の教育機関への助成金はOECD加盟国になかでも最も低く、家庭の負担が最も高いのが問題です。

(つづく)

【麓 由哉】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、在ニューヨーク日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に「21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦」(早稲田大学出版部)など多数。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。
著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

(1)
(3)

関連記事