リッツ・カールトン開業でどう変わる?雑多さ魅力・若者のまち「福岡・大名」(後)
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ジェントリフィケーションは、吉と出るか、凶と出るか
こうしたカオスな魅力が混在する大名エリアに23年3月、世界レベルのラグジュアリーホテル「リッツ・カールトン」が開業する。同ホテルの開業によって、大名エリアのジェントリフィケーション(都市の富裕化・高級化)がどれだけ進むかは定かではないが、これまで周辺になかったレベルの高級志向の各種店舗などの進出も誘発し、大なり小なり影響をおよぼすことは間違いない。
たとえば、大名エリアにおける標準地点の地価公示価格だが、17年1月から20年1月までのここ6年間で、「大名1丁目15番外(用途地域・商業):65万1,000円→135万円」「大名1丁目701番(用途地域・商業):121万円→202万円」「大名2丁目177番(用途地域・商業):164万円→374万円」とほぼ2倍の水準まで上昇している。地価の上昇は、そのエリアに対する評価を反映したものともいえるが、その評価が過剰に肥大し過ぎると、家賃や物件価格の必要以上の高騰を招いて新陳代謝を鈍化させたうえで、これまでの大名の魅力の源泉であった多種多様な小規模店舗を排斥し、まちの持ち味を殺してしまいかねない。そう考えると、ジェントリフィケーションの進行を促しかねないリッツ・カールトンは、エリアにとってある種の“異物”といえるかもしれない。
ただし、旧大名小学校跡地活用事業では、リッツ・カールトンが入るオフィス・ホテル棟などの新設だけでなく、「Fukuoka Growth Next」が入る旧・大名小学校本校舎の活用および連携についても盛り込まれている。福岡市による「旧大名小学校跡地まちづくり構想」でも、まちづくりの方向性として「歴史・文化・緑・賑わいをつなぐ」「地区の個性を活かしたまちづくり」と掲げられているように、歴史的建造物を取り壊すことなく、あえて利活用しようとしている姿勢は、この大名小跡地に、過去と未来とをつなぐ「かすがい」的な役割を期待しているものと見ることもできる。エリア全体のジェントリフィケーションを進めることなく、かつての各種職掌による町の区分のようにエリアを細分化し、それぞれに個性をもたせたうえで棲み分けができるならば、大名というまちのカオスな雑多さのなかに、「尖った高質エリア」という新たな魅力の一要素を獲得できるかもしれない。そこに、一筋の光明を見出せるだろう。
はたして大名はこの先、ジェントリフィケーションの波に呑まれて、従来のまちの魅力であったカオスな雑多さが失われてしまうのか、それとも雑多さの新たな一要素として高質さをも取り込み、まち全体の魅力の振り幅を大きくしながらさらなる発展を遂げていくのか――。リッツ・カールトンの開業を控え、大名というエリアの度量や懐の深さが問われている。
(了)
【坂田 憲治】
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